動物病院 豊島区 東京都 久山獣医科病院

動物病院 豊島区 東京都 久山獣医科病院
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動物病院 東京都 久山獣医科病院

皆さんが知っていると良いなと思うこと(資料閲覧の図書室も参考にしてください)
<MENU>
〇雑誌掲載の原稿 皮膚科の検査について/全身麻酔について
〇基礎知識 Dog Speed ついて/かかりつけ医/犬や猫の自然とは?/老化と認知症/介護について/
         安楽死について/ペットロスについて
〇内科治療 薬について/抗生物質について/ジェネリック医薬品について/在宅での皮下点滴治療について/
         処方食について/処方食(特別療法食)のネットやショップでの購入の危険性について
〇検査    検査の考え方/臨床検査について
〇外科手術 手術の考え方と縫合糸の選び方/体腔内の新生物・腫瘤(mass)を見つけたら/
         腹腔内に形成される肉芽腫について/落下事故の対処
〇生活    お肉の生食は大間違い〜百害あって一利なし/犬の問題行動/エコを考えた暑さ対策/
         災害時の準備と心がまえ/放射線障害から動物を守る

雑誌に掲載された原稿
 最近、獣医師向け雑誌に寄稿しました原稿集です。古いものや短報、症例報告、マニアックアなもの、
お役に立ちそうもないものなどは掲載しておりません。
 
 皆さんのお役に立てるような、まとめの内容に限定しておりますが、研修医や臨床経験の浅い獣医師向けに
書いた原稿ですので、飼い主さんにも十分ご理解頂けると思います。ただし、内容全てを理解し、
把握して頂く必要はありません。軽い気持ちで、お読みください。

★1〜5 NJK(ピージェイシー(株)発行) 2008年2・4・6・8・10月号より転載

★6〜7 CLINIC NOTE((株)インターズー発行) 2008年12月号、2009年10月号より転載

★7 こちらをクリックしてください アレルギー検査を行う前にすべき検査

★6 こちらをクリックしてください 全身麻酔法総論と各論

★5 こちらをクリックしてください 全身麻酔の教育講座5 麻酔の準備(麻酔計画・記録編)

★4 こちらをクリックしてください 全身麻酔の教育講座4 麻酔の準備(設備・器具編)

★3 こちらをクリックしてください 全身麻酔の教育講座3 インフォームドコンセント 当院での取り組み

★2 こちらをクリックしてください 全身麻酔の教育講座2 インフォームドコンセント

★1 こちらをクリックしてください 全身麻酔の教育講座1 まず考えるべきこと・行うべきこと

Dog Speed ついて
 おうちの子の具合が悪くなってすぐ病院に行ったのに、「重症です、手遅れです」と言われること、
なぜ多いのでしょうか。獣医さんが脅かしているわけではありません。

 まず第一に、動物は体調の変化のサインが見つけにくい、サインを出しにくい、ということがあります。
早く見つけたつもりでも、実は見逃していた、分からなかった、様子を見てしまった、などということが
多いのです。「病気に気づく理由は、人は兆候、動物の場合は症候(症状)」といわれます。

 例えば、胃腸炎の場合、人だったら食欲が少し無い、胃がもたれる、ムカムカする、お腹が痛いなどの
兆候が先に認められます。この時点で、食事を気にしたり(簡単な食事療法ですね)、
お薬を服用したり(民間療法です)、あるいは病院へ行かれるでしょう。また、元々お腹が弱いなどの
既往があれば、ご自分の体質がわかっていますので、その点も注意できるはずです。あわせて、痛みなどの
度合いで危険度の把握できる場合もあります(自分の身体となると、ここまで出来ないこともありますが)。

 これが動物になると、なんとなくおかしいな、という感覚があっても元気や食欲に大差がないと
目立ちません。その後、嘔吐や下痢に発展した症候が現れて、あわてて病院へ、ということになります。

 また、痛みや辛さの度合いも伝わりにくく、ここまでひどかったのか、なんてことが後からわかることも
多いようです。この点で言うと、定期的に検診を受けてもし身体に弱い部分があれば、治療などをしなくても
その事実を知っておくこと、あるいは気にしておくことは病気の予防や早期発見にとても役立ちます。

 加えて、以前発症した病気についても、しっかり理解しておくことでコントロールしやすくなります。
お家の子の性格や体質、サインなどもしっかり理解しておくことが大事ですね。

 第二に、サインを隠しやすいということもあります。我慢強いとも言えるかも知れません。
先ほど書いたようにどのくらい辛いのか判断しづらいということもあります。

 第三に、今回のタイトル、Dog speedという考え方です。Dog〜と言いつつ、Cat Speedでもあります。
「動物が病気になった場合、病気の進行の速度や身体にかかる負担の度合いが、人の7倍である。」
というものです。例えば、調子が悪くなって3日目に気付いたとしましょう。でも、この日数は人で言えば
3週間になってしまうのです。

 ここで、難しいのが、体調に変化があった場合どうするか、です。何でもかんでも病院へ行っていたら、
それは良くないことです。でも、様子を見ていたら手遅れになってしまいます。放っておく危険を冒すよりは、
わからないときは主治医にすぐ相談、これが一番かもしれません。

 主治医であれば、ある程度の性格や体質を把握しているので、必要な質問やそのお答えで、
来院の有無や今後の注意点などアドバイスしてくれるでしょう。特に、幼若期は病気の進行が早いですし、
体力もありません。性格や体質もまだ理解しきれていませんから、早めに行動を。もし、あわてすぎ、
心配しすぎでも、それは後から笑い話ですんでしまいます。でも、手遅れだったら後悔につながりますからね。

 そして、相談した内容、心配しすぎた失敗は、よく覚えておいてその後の生活に役立てれば、
ある程度の体調の変化には十分飼い主さんが対応できるようになります。失敗を繰り返し成長し、
失敗を生かすこと、これは大人になっても必要なことですね。

 結果的に、この三つの要素が重なる事が多く、なかなか病気が見つけられず、病状が進んでしまうことが
多いのです。神経質になる必要はありませんし、犬や猫のプロになる必要もありません。
その部分は僕たち獣医師に頼ってください。でも、くれぐれもお家の子についてはプロ、
ないしはエキスパートになって下さいね。

 Dog Speedの負担を少しでも改善できるのは、飼い主さんだけです。日ごろの生活とスキンシップ、しつけ、
相互理解、定期健診や予防などで7日を何日まで縮められるか、そこが飼い主さんの腕の見せ所、
お家のOwner Speed(負担を少なく出来る度合い?僕の造語です)を少しでも更新してください。

かかりつけ医
 かかりつけ医を持つことを僕は良く勧めますが、そのメリットについて、細かく書いてみました。あくまで獣医師側の
意見なので、患者様側からは異論もあると思いますが、これがまぎれも無い事実、です。

1、病気になる前に病院にかかることで、病院の技術や考え方を知ることが出来ます。その上で、
信頼できる病院か病気になる前に分かります。

#これがとても重要。病気になってから病院を捜した時、もしその過程で診療に不備が在れば、
直接生命に関わります。

2、病院へ行く事で、日常の注意点や生活環境、食事、しつけ、予防、病気についてなどを学ぶ事が
できます。また、病院へ行く事に飼い主さん自身が慣れることが出来ます。

#知識の「知るワクチン」が重要です。

3、飼い主さんの考え方や動物に対しての知識、弱点などを病院が理解することにより、より良い診療や補足、
指導が行えるようになります。また、そのやり取りの中で、お互いに信頼関係を作ることが出来ます。

#病気の予防だけでなく、最善の診療が行いやすく、細かいところまで配慮・相談が出来ます。

4、動物が病院に、スタッフに、その雰囲気に慣れることが出来、また診察を受けることにストレスを感じにくくなります。

#例えば、高齢であったり、重篤な病気を持った動物が、初めて病院へ行くと、興奮や緊張が過度になり、
病状の急激な悪化を招く事があります。

5、病院のスタッフが、動物の性格や体質を把握する事ができる。また、その変化を記録し、
経過を診る事ができます。

#例えば、体重を記録するだけでもその変化から多くのことが分かる。検査などで異常値が出ても、
その結果が急性なのか、慢性なのか、慢性疾患の急性化か、初見ではこの鑑別も難しくなります。

6、診療における不必要な部分を排除でき、診療のストレスと負担を最小限に出来る。また診察をしなくても
ある程度のアドバイスを行う事が出来るようになります。

#今までの経過が分かれば、情報からある程度の病状の予測が可能になる。また、経過から予防的な治療や
診断的治療が的確に行えやすくなる。慢性疾患や再発疾患の場合、早めに対処できるだけでなく、
効果的な治療法を選択しやすくなり、副作用なども事前に回避しやすくなります。

7、これらの蓄積から、飼い主さんも病院スタッフも身体の異常を見つけやすくなります。

8、基礎疾患や既往歴を知ることで、現状の把握と今後の予測が可能にあり、的確な診療が行えます。

#慢性疾患や再発疾患の場合、早めに対処できるだけでなく、効果的な治療法を選択しやすくなり、
副作用なども事前に回避しやすくなります。

9、今後の注意点が明らかになり、予防的な対策と発症時の的確な対処が可能になります。

10、夜間や休日の急患対応などの対応を受けやすくなり、また事前に打ち合わせができます。

11、以上のような交流から、病院と飼い主さんと動物、三位一体の信頼関係を作ることが出来、
最良のそして個々に合った(オーダーメイド)診療が可能となります。

 では、かかりつけとはどの程度のことを言うか?数年前にかかったことがあるとか、アドバイスや指導、
治療を守らないなどはかかりつけとは言えません。というよりも、かかりつけ医を持つメリットが全くありません。
では、かかりつけとはどんな状況を言うのでしょう。下記に簡単な例を挙げますが、これはいろいろな考え方が
あると思います。

1、病院の推奨する最低限の予防プログラムを行っている。

2、最低年2回は、病院の診療を受ける。
(特に、若い頃は年一回、中年期以降は年二回の定期健診をお勧めします)

3、体調や病気のことはもちろん、体重や食事の指導、生活環境やしつけ、
日常の注意点や予防的なアドバイスを受けたり、相談をしている。

4、簡単なことでも相談をしやすく、気軽に尋ねる事ができている。
 例えば、スタッフが少ない休診日や夜間など、今まで診療の記録があれば応急処置的な治療や薬の処方も
可能な場合も多いですが、全く経過のわからない子や初診の子にはそういう対応は不可能で、
むしろ危険かもしれません。

5、以上のことを、ご自分で理解し、必要と考えて行っている。


6、信頼できる病院か、しっかりと判断している。結果、信頼する病院をかかりつけ医として考えている。

 これらは、かかりつけを持つ、というよりも動物の健康を保つためにとても重要です。

犬や猫の自然とは?
 「犬=雑食、猫=肉食」だからそれを考えて食事やしつけをした方が良いという一見正しいように思えますが、しっかり考えると間違っている理論です。しかも残念ながら、皆さんが動物のプロと考える方から発せられることが多いセリフです。そして、納得してしまう方も以外と多い極論です。でも待ってください、犬も猫も人が品種改良し、人の家族となるべく作り上げた動物です。数千年の変化を経て今の姿がある犬や猫たちに、祖先とはいえ異なる動物を例に出してもそれはまったく別の種族です。

 人だって、動物の中で唯一理性があると誇られますが、その理性が働かない人間が多いから、犯罪や誹謗中傷、差別、偏見、戦争などなくなりませんよね。「人間らしさ」を示せない人が、固定観念で「動物らしさ」を決めて求める事、これ自体大きい矛盾でしかありません。

 野生動物でもなければ、野生に近い状態を保つ目的の動物園やサファリパークの動物でもありません。あくまで家庭で、家族として生活している彼らです。「現代の犬=雑食、現代の猫=肉食」なんて事実はありません。あくまで「犬の祖先=雑食、猫の祖先=肉食」でしかありません。今の彼らの消化の能力に生肉を食べる力も無ければ、何か一つのものだけを食べ続ければ良い訳でもなく、身体自身がそれを欲しているわけでもありません。生活環境の改善や医療の発達、動物への意識の変化の中でも特に、食生活の改善が寿命の延びや苦痛や病気の軽減に役立っている事を思い出してください。もちろん、間違った育て方をしても元気な子はいるでしょう。でもそれは、結果オーライであり、これからどうなるか分からない未来があり、少数派である事も忘れてはいけません。

 例えば猫は魚が好き、というのも海の国の日本で作り上げた固定観念。海がなく、川も水も少ない魚が希少な地で、猫は絶滅していますか?エジプトの猫の祖先たちは?砂漠にいる猫は、何を食べているのでしょうか?

 例えば、人の祖先は猿です。じゃあ、人もみんな裸になって、山に帰れば幸福になれるでしょうか?木の実や昆虫、沢蟹などを生のまま美味しく食べられますか?ボスを頂点にしてただ繁殖を行っていく生活が幸福ですか?祖先の猿の暮らしはあくまで今の猿に受け継がれるもの、人に受け継がれてはいません。

 野生動物であれば、不適切な食事を自ら選び、あるいは適切な食物を得る事が出来ず、死を迎えるのはその動物の運命であり能力の限界、これがいわゆる淘汰でありそれ故強い種が残っていくという訳です。そこに人に壊されない生活環境があれば、本来それが野生動物の「自然」であり、「らしさ」であるわけです。

 ならば自ずと分かってくるはずです。野生動物ではない犬や猫たちにこの能力を求めるのは誤りのないものねだり。これは「不自然な自然」であり、「らしくないらしさ」なのです。とすると、例えば食生活。飼い主さんにはフードを選ぶ事と食事を管理する事の責任の重さと事の重大さを常に感じて頂かなければいけません。安易に人に勧められたからとか、自分の好みだからとか、安いから、手に入りやすいから、これは×です。

 適切な運動やその場所、方法を提供するのも、責任です。彼らは自由に選ぶ事ができないわけですから。一見優しく見え、自然に見える「ノーリード」のお散歩も、不適切な場所でのドッグランも、体調不良の子のアジリティも、実は安全無視の危険行為になってしまいます。

 動物の老いや病を自然の摂理と考え、諦める方が多いのにも驚かされますが、動物が苦しんでいる時に「これは動物の宿命、淘汰だから」と見捨てて良いのでしょうか?自分たちが勝手に生活を共にしてきて、家族として接していながら突然急に野生動物として判断し、結果的に見捨てるようなことになってしまう事自体、むしろ無責任でひどいことではないでしょうか。これは、高齢になった子を「もう寿命だから」と見切ってしまうのも同じ行為。よく言えば自然、悪く言えば飼養放棄であり虐待です。

 もし今、飼い主さんも動物も楽しみながら、でも今後身体に負担になるような生活や食事をしているとしたら、今楽しいことを重視するのではなく、他に楽しいことを見つけてあげて、改善するべき事は例え厳しくても改善する。この生活を続けたら後で苦しむかも?と思い留まってもらうのが愛情です。

 中には、種類が猟犬だから物を追ったり他の動物を攻撃するのは当たり前とか、使役犬だから吠えるのは普通、なんて言い訳をする方がいます。これも大きな間違い。それは種の本能ではなく、動物の本能であり、しつけを怠っただけの話。それこそ、猟犬の能力を発揮するには本能に任せるのではなくトレーニングとしつけが重要で、彼らはルールを守るのが基本です。その部分は教えずに苦労を知らない子達に、本物の猟犬からすれば「名を語るな」ということになるでしょう。

 日本人に生まれれば、皆自然と礼儀正しくなり、奥ゆかしくなりますか?ずっとボクシングを続けてきた人は、すぐに人を殴ったりしますか?またそれが許されますか?九州の男性は皆亭主関白ですか?・・・。

 ルールは教えずに本能のまま行動することを良しとするのは土台無理な話です。なぜなら、人と生活を共に出来なくなる、愛されなくなる、だけではなく生きていくことすら出来なくなるからです。それはどんな動物だって、本能のまま生きれば好き勝手な事をするわけで、種の本能によるものではありません。それはただの甘やかしであり、わがままです。ましてや野生動物であれば、その後はすぐに絶滅していくでしょう。

 すべては、人の勘違いであり勉強不足であり、理解力の無さから来るエゴであり、固定観念です。しかも、ルールをわきまえない人が多い世の中で、動物にだけルールを厳しく教えるのも矛盾だらけ。恥ずかしい限りです。それを動物の幸福と押し付け続けた時、いつか人は動物から愛想をつかされたり、動物と楽しく生活できない日が来るに違いありません。

老化と認知症
 老化や認知症は、避けることが出来ないもの。長生きという幸福の結果訪れる衰えです。
 
 ただ、自分の愛するものが、元気な姿や快活な行動そして若さを失い、
体力的にも精神的にも変化していく姿と接する事は、とても辛い事です。その上でそれらを認識し、
認知症や老化と面と向かって一緒に生活をしていくことは、並大抵のことではありません。

 ただし、実際は老化や認知症と老齢にあらわれる病気の症状に、大きな差はありません。そのため、
獣医師にも飼い主さんにも、体調不良や病気であるにも関わらず、老化や認知症と決め付けて、
見過ごしたり放置したり、諦めてしまわれることが多々あります。

 また、気付いていても高齢だからもういいやと投げやりになったり、寿命を考えてどうせ長くないしと思ったり、
もう年だから自然に暮らそうと、誤った知識や考え方からむしろ放置になってしまうことも少なくありません。

 もう年だからではなく、そして寿命を考えて先を想うのではなく、せっかく長生きしたんだから、
今をもっと楽しくいて欲しい、もっと長生きしてもらいたいし、もっと余生を楽に暮らして欲しいと考えてあげましょう。
そしてそのためには、飼い主さんとして出来る限りの理解と努力、協力をしてあげましょう。

 中には、病気の予防や生活の管理を怠った結果から、あるいはその結果の病気から老化や認知症が発症し、
進行していくことも多々あります。これは、やむを得ない事情があったにせよ、
厳しく言えば明らかに飼い主さんに責任がある、作るべくして作られた病気だとも言えます。

 ならないようにする事、なった時にどうするか家族内で前もって相談をしておくことが大切です。そして、
もしそうなってしまった場合は、早く気付いて対処してあげる事、病院に相談して適切な対策を練ること、
そして一人で背負い込むことなく、周りの助けを求めながら介護をしっかり行うこと。
 
 認知症になるくらい幸福で長生きしたんだ。身体が衰えていく中で、頭がそのままではむしろ苦しむ事になる。
嫌な事を忘れ、聞きたくない事が聞こえなくなり、これは一つの幸福の形です。赤ちゃん帰りなんだ・・・、
いろいろな考え方や意見があります。そしてそれぞれ正しくもあり、割り切れない部分もあり難しい。結局、
飼い主さんと動物が納得する事が肝要なのでしょう。

 飼い主さんは、動物についてしっかりと理解し、人間本位ではなく、
人と動物がお互いに幸福な共生を行うことに努めなければいけません。そう、動物本位でもいけません。その上で、
人と動物がより良い生涯を送れるようにすること、最期までしっかり見守る事、この責任があります。

 なぜなら、コンパニオンアニマルの歴史は、「動物の自由を奪い、人が勝手に、生活に役立てるために、生活を共にする」
ことから始まっているからです。そして彼らは今でも、自分で生まれること、生きること、
死ぬことすら選ぶ事ができずにいます。

 人は動物を選べても、動物は飼い主さんを選べません。そういう点では、比較してはいけないとは思いますが、
人のご家族以上に動物に対しての責任は重いのかもしれません。

 もちろん、このようなことに縛られる必要はありません。が、理解したうえで老後や認知症、介護を考えていくと、
また違ったものが見えてくるのではないでしょうか。

 最近では、老犬専用のリタイヤ施設も見受けられます。介護やケアを考えた場合、
この施設はとても良いものだと思います。

 反面、預けられる動物を考えた場合、施設の体制を考えた場合、不安もあります。
以下は、ケア施設の設立について意見を求められた時の回答の一部です。ご参考になれば。

 飼い主さんと獣医師の個々の考えと努力によって、動物の老後は大きく変わってしまい、10の老犬がいれば、
10の老後になるような状況です。幸福な老後よりも不幸な老後が多い問題点だと思います。
 
 小さくて可愛い幼年期、元気に飛び跳ねる成年期、落ち着いて生活が出来る壮年期、
徐々に衰えを見せる老後という全てを受け入れるという最低限の約束で、動物を飼う事が人には許されるわけで、
そういう部分では自分に負担がある時になったら、悪く言えばホームに「捨てる」ことになりかねないことも考えられます。
あくまで、飼い主さん・動物が努力をした結果、現状では介護を続ける事が双方にとって不幸である、
これがホーム入所の最低の基準ではないかと思います。
 
 動物は飼い主さんの下で初めて安楽を得るという点が気になります。そして、どんなに認知症がひどくとも、
動物は飼い主さんを認知しています。どんなに設備やケアが行き届いていても、
飼い主さんと離される動物の悲しみに勝るものではありません。

 極論であれば、劣悪な環境でも飼い主さんとは離れたくない、これが動物の意識です。
 
 人が、介護の苦労から解放されても、動物は生涯飼い主さんへの愛情に縛られ、捨てられたという意識を持つならば、
これは不幸以外何ものでもありません。この点のケアが、動物・飼い主さん双方に必要と考えます。

 老犬ホームの設立には賛成です。介護に苦しむ方やお年寄りには朗報であると思います。
ただし、上記のような状況を理解した上で経営をして頂く事、同時に相談にみえる飼い主さんへの啓蒙、
自宅介護が適切である場合は入所をお断りして指導をするくらいの姿勢、経営とは相反するものと思いますが、
生命を扱う仕事であれば、またある部分介護という責任を担うおつもりであれば、
利益を顧みない部分も必要であると思いますし、そのような対処を望みます。また、その動物に主治医がいれば、
密に連絡を取る事でより良い環境が作ることが出来ると思います。

 老犬ホームという部分と、介護事業であるという部分(自宅介護の支援)も行って頂けるとより良いと希望します。
近隣住民との合意、設備と環境を整えること、充分な数と技術をもつスタッフ、道徳倫理の徹底、
飼い主さんへのカウンセリング、動物の行動医療などが徹底されれば、問題はないと思います。

 最後に、ペットブームに乗った利益追求の参入でない事を約束して頂きたいものです。動物病院も、利益追求に走る者、
手抜きに走る者、いろいろな犠牲を払って福祉と医療に邁進する者と三者三様です。実際に、動物本位の努力をすると、
人件費や設備費、時間と労力など決して見た目ほど楽ではなく、汚く地味で利益は出ない業種です。
その中で、顧客に迷惑をかけない経営努力をお願いします。

介護について
 介護は大変です。それは、家族であれば人も動物も同じです。「文句やわがままを言う分、人のほうが大変だ」
と言う方もいれば、「何も言ってくれないから、動物の方が大変」と言う方も。
 
 特に、それが病気ではなく老化や衰え、認知症であれば尚更介護される方も、介護する方も。なぜなら、
家族という身近な存在であり、他人事に出来ない事。責任と努力と自己犠牲が要求され、
目に見える成果や対価が見出せない事。ゴールが無く、改善する見込みもなく、結果が伴わない事。
完璧を求めればそこに上限は無く、いくらでも求め続けてしまうことが出来る事。そして、
愛する者の衰えを目の当たりにする恐怖と悲しみ、哀れみ、同情とやるせなさ。こんなはずじゃないという想いが、
相手を不甲斐なく思え、認めたくないという足掻きを覚え、
なぜこんな事になったのかというぶつけようの無い怒りを感じ、もっと何かが出来たんじゃないかという後悔・・・。
そして、そばにいる、背負っている者にしか分からない事情と背負い込まざるを得ない状況。

 介護する場合必要な事は、独りではないという気持ちを持つ事、周囲の援助、助けを求める素直さ、あきらめる潔さ。
状況を受け入れ、前向きに考え行動する事。出来る事を精一杯行い、そこに満足感を持つ事。
自分なりのゴールを見据え、成果と報酬を設定する事。自分のけじめ・・・。

 成果や報酬って?もちろん、自分がリラックスできる時間や余暇、趣味を持つ事。美味しいもの食べたり、
遊びに出かけたり、旅行に出かけたり。そして、それに後ろめたさや申し訳なさを感じずにしっかり楽しむ事。
でもそれ以上にうれしいのは、周りからの労いや褒め言葉。そして、介護した結果の笑顔や和らいだ表情、言葉、
愛情、時折見られる病状の好転と昔の面影。

 どこまで出来るか、ではなく何が出来るか、何をするべきかを見極め、成果も結果も人それぞれで、
家族それぞれで。あの子は〜だ、あの人は〜だった、あのうちは〜・・・、こんなの関係ありません。
介護する方とされる方の関係は、他人からは絶対にわかりません。お互いにしか分からない気持ちの絆が、
心の繋がりが、そして時間をかけて築いた信頼があるからです。

 でも、分かっていても出来ない事があります。イライラして表情や態度に嫌な気持ちが出てしまったり、
声を荒げてしまったり、つい手を上げてしまうことも。そして、その後の自己嫌悪と自分への怒り、憤り。
スーパーマンにはなれません。

 でもそれは、究極の愛情の裏返しであり、ちょっと行き過ぎてしまっただけ。気持ちが入りすぎたから。
他人事や第三者だったら、どんなに楽か、そう距離が近すぎただけ。もしそんな事があったら、一言ごめんなさいと、
心から謝りましょう。すぐに許してくれるはず、忘れてくれるはずです。
そして、その分のその後の介護で挽回してあげられれば。

 老化や認知症は、身体の防衛反応だとも言われます。身体が衰え、頭だけしっかりとしていれば、
成長を続けてしまったら、それだけ身体に歪みが生まれ、いろいろな事が蓄積され続け、いつしかその重みに、
そのゆがみに押しつぶされてしまうでしょう。

 頭だけ赤ちゃんに若返り、せめてこれ以上負担を増やさず、嫌な想いを増やさず、今までの思い出を大切に、
他は忘れてしまう。これは、脳が作り出した自己防衛なんでしょうか。嫌な事を忘れてしまうこと、
思い出さないことは幸福の一つかも。じゃあ、楽しいことがあっても忘れてしまうのは?楽しいことは、
それを感じた瞬間瞬間に味わえるから大丈夫なんでしょう。

 最期の幸福な時期に、一緒に過ごせる事を、大切にする想いを持って、
そして介護や介護される側から教えられることがたくさんあることに驚きつつ、自分も成長していけるように。こんな、
美辞麗句では済まないのはわかっています。きれいごとばかりではない、と言うのも分かっています。だけど、
そんな想いだけでも持っていられれば、幸福と感じられる瞬間が介護の中に絶対に見出せるはずです。

 介護を指導する時、このようなお話をいつもしてきました。そして、僕らが動物の介護に優しくなれるのは、
それが仕事で、動物は患者さんで、僕らは第三者で、その瞬間だけ頑張ればよくて、距離が持てるからなんだよと、
介護に悩む方にはお話していました。そして、いま自分が介護する側に立った時、その話の正しさと、
でもそれでは済まない難しさ、これに毎日悩んでしまいます。答えが出て、納得が出来たと思ったら、また迷う、
この繰り返し。でも、その積み重ねで何かが変わっていくのでしょう。

安楽死について
 当院の方針として、安楽死は極力行なわないようにしています。もちろん、改善する見込みのない、
更なる悪化が予測される苦痛や辛さを他の方法で取り除いてあげられない場合、
安楽死に勝る治療法はないとも言えます。
 
 ただし、楽になるだけでなく、飼い主さんとお別れしてしまうこの方法を、果たして彼ら動物たちは
望んでいるのでしょうか。人間以外の動物は、自殺をしません。人は、感情に大きく左右され、
そしていろいろな欲が強いためこのようなことが起こるといわれています。美味しい物が食べたい、
お金が欲しい、きれいな洋服が着たい・・・などなど。それでは、動物が生きる目的は何でしょう?

 それは、飼い主さんと楽しく一緒にいることなんです。そして、欲はありますが、
それ以上に純粋に生きたい為に生きているのです。
 
 だから、彼らは生に対して純粋に生き抜くことを選択し、頑張ってくれるんです。その結果、
重病でも治ることがあり、奇跡が起こることもあります。もちろん、甲斐なく亡くなってしまうことも
あります。ただこのような場合、頑張ったことを嘆く必要はありません。彼らは、精一杯自分たちの力を
使って、望み通りの事を行なっただけなのですから。
 
 安楽死は、その彼らの目的を真っ向から否定してしまうものなのかもしれません。安楽死について、
目を背けずしっかり考え、相談していかなければいけません。

 もちろん、頑張りすぎる彼らに頑張らないで良い事を教えてあげるのも、飼い主さんのお仕事で、
それが安楽死という行為につながることもあります。

 安楽死を考える場合、飼い主さんが動物の苦しむ姿を見たくない為に選択したり、お別れをしたくない
という理由で拒否をしたり、人間本位の結論を出すことは避けなければいけません。そのため、ある程度の
判断基準が設けられています。この基準は、特別なものではなく、獣医師であれば誰もが感じることであり、
皆さんにお話しする内容です。難しいものでもありません。この基準を参考にしつつ、獣医師と相談、
家族と相談、おうちの子と相談、これを繰り返し行ない検討することが、正しい結論(後悔のない結論)を
見つける方法になるのではないでしょうか。

 ただ、個人的な意見として、欧米流の考え方と日本の考え方は若干違うと思います。
極端な話、例えば欧米では鳥が怪我をして飛べなくなってしまった時、飛べないことは鳥にとって不幸である、
ということで安楽死を勧めるケースが多くなります。もちろん、正しい考え方であるかもしれません。

 でも、飛べなくても、ある程度快適に暮らし、飼い主さんの負担も抑えられるようであれば、
ぼくは生きていて欲しいと思います。だって人だって、身体に不自由があったり、病気を持っていたり、
生活が苦しかったり、いろいろな問題を抱えながら、でも生きがいを持って、楽しく生きている方は
たくさんいらっしゃいます。飛べなくても、鳥であることには変わりはない、かわいい家族には変わりがないと
思うんです。情に訴えてはいけないことかもしれませんが、家族の事を考える時、情が入るのは当たり前だと
思います。
 
 当院では、動物がまだ生きる意欲を示している、耐え切れない苦痛や辛さがない事、飼い主さんの負担が
まだ受け入れられる範囲内である場合、安楽死は相談のみに留め、お勧めすることはありません。

ペットロスについて
 「ペットロス」とは、日本語で直訳すると「愛玩動物喪失」という言葉になります。
愛する動物(家族)の死という別れによる、普段経験することのない体験を言います。一般的には、
精神的・肉体的な喪失感や辛苦、虚無感、悲しみ、苦痛を表す言葉として使われています。

 「ペットロス」は、決して悪いことではありません。愛する家族を失ったわけですから、悲しいのは当たり前です。
この悲しさは、他人が理解できるものでは到底ありません。その大きさや表現の仕方もその方によって千差万別です。

 僕が、家族とお別れした飼い主さんに必ずお話しすることがあります。

1、生きている間に後悔のないよう、今出来る事を全て精一杯やってあげましょう。

2、亡くなった時、美味しい大好物、きれいな花、楽しいおもちゃ、みんなの写真など、
いろいろな想い出の品を供えてあげて下さい。出来れば、他の動物たちや縁の方たちにも
会って頂いたほうが良いですね。

3、亡くなった今、動物は精神的・肉体的苦痛からはもう開放されています。
おうちの子を心配する必要はなくなりました。逆に、彼らが飼い主さんを心配しています。
心配をかけたら、遊びに行きたくても行けなくなってしまいます。

4、今は、思いっきりたくさん、愛情の分だけ泣いて下さい。その悲しむ姿を見て、どれだけ自分たちが愛されたか、
彼らは満足できるのです。

5、悲しみからいつまでに立ち直るか、なんて期限はありません。気の済むまで悲しめばよいし、
他人の目を気にする必要はありません。ただ、身体の負担になったり、
生活に支障のある悲しみは短めにしておきましょう。彼らは、そこまで悲しんで欲しいとは望んでいないと思います。
また、飼い主さんを心配し続けている彼らを苦しめることになるかもしれません。前にも書きましたが、
犬や猫は飼い主さんの幸福を第一に考えて生きてきました。亡くなった今、せめて飼い主さんの順位を二番にして、
自分たちのことを一番に考えるようにしてあげても良いのではないでしょうか。それでも、必ずそばに居るんですから。

6、出来れば嘘でも良いので、葬儀に出す際は、無理してでも笑顔で送り出してあげてください。
そして、褒めてあげてください。しっかりと生き、皆さんを癒してくれたことを。

7、肉体は離れても、心はいつも一緒に居ます。たぶん、気配や足音なんかは残っているかもしれません。
遺骨にこだわることはないとは思います。ただ、納骨の時期は、宗教的にもいろいろとあると思いますが、
気が済むまで一緒にいて良いのでは?そして、いつかは出来ればゆっくり休める所に納めてあげましょう。
飼い主さんのそばに居すぎると、また彼らは気を遣っているかもしれません。

8、楽しかった想い出、たくさんの表情やしぐさ、これだけはずっとずっと心に残してください。
そして、思いだしてあげてください。このために、彼らは精一杯生きてきたと言っても過言ではありません。
そしていつか、笑顔で想い出を語り合い、楽しくお墓参りをして、そんな時を迎えてあげてください。

9、これだけ動物を愛したこと、立派なご家族を持たれたこと、看護や介護を頑張ったこと、
しっかりと死と向き合ったこと、ご自分を褒めてあげてください。自信と誇りを持って、威張ってください。

10、いつかまた動物を家族に迎えたくなったら、それは亡くなった子達のおかげです。彼らがとても良い子だったから、
楽しい想い出をいっぱいくれたから、いろいろな事を教わり教え、癒し癒されたから、幸福だったから、
また家族を迎えたいと思うわけです。それは亡くなった子達への一番の褒め言葉であり、感謝であり、
彼らも喜んでいるはずです。実際に迎える、迎えないに関わらず、その心境を得られることこそ、
幸福なのかもしれません。

 それではなぜ、「ペットロスに陥ってはだめ」、と言われるのでしょうか。そもそも、陥るって何でしょうか?

 陥るとはつまりどん底に落ちてしまうこと、そしてそこから抜け出せないこと、です。
悲しさのあまり精神的に変調をきたしてしまう、体調を崩してしまう、
一過性のものであればそのような苦労を乗り越えることは可能でしょう。でも長期になれば、
さらに深く傷付いてしまいます。最悪は、ペットロスに陥ったご自分を責める事になったり。

 きっかけになるのは、以前にも述べた過干渉、依存、現実や死から目を背け続けた事、突然の出来事、
他人の心無い言葉や態度、重度の虚脱感、後悔などです。

 特に他人の言葉や態度、これがきっかけになる事が多いようです。「動物が死んだくらいで」とか
「他にも代わりはいるよ」とか「いつまで悲しんでるんだよ」とか。励まそうとかけた言葉が、
大きな傷になることも多いようです。
 
 中でも、獣医師の態度や言葉の影響が大きいため、僕らも努力と反省と細心の注意が必要です。
 
 ただ最後に苦言を。過干渉や依存がペットロスの原因になる場合は、飼い主さんご自身にも責任があります。
そして、生きている間にも動物たちを苦しめているはずです。距離が近すぎて、依存しあうこと、
これは生あるうちでも人も犬も不幸であると言えます。

 全てが過剰にならないよう、時には自問自答してみましょうね。行き過ぎた愛情は、偏愛であり、
エゴでしかありません。また、生ある動物と生活をする際、いつも死を意識するなんてことは不幸だと思いますが、
生活が始まるときだけでも、老いを感じたときだけでも、この子達を失う事があるんだということ、
これは絶対に考えて頂きたいことです。

 実際に僕がうちの子にそれをやれている?ペットロスにならない?内緒です。僕も、続けて二匹の愛猫を亡くしました。
そして愛犬も。自分の無力さを痛感しました・・・。

 僕はいつも思うことがあります。本当に、病気の最期の最後で、何で彼らはあんなに頑張るのだろう。
もしかしたら、飼い主さんにお別れの準備をしなさいという事なのかな、と。
「このまま、すぐに私が居なくなったら辛いでしょ。もう少し頑張るから、その間に心の準備をしてください」と、
言っているような気がします。もちろん、その間に彼らもお別れという辛いことの準備をしているのでしょうね。

 彼らの気持ちを、無駄にしないように。

お薬について
 当院では、主に人医用の医薬品を使用することが多くなります。そもそも、日本で認可されている動物用医薬品が少ないことがその原因ですが、人医薬でも投薬が難しいもの、製品がないもの、剤型が不適当なもの、高価なものなどは使用が難しく、このような場合は日本および海外の動物用医薬品や海外の医薬品(海外の製剤は、厚労省や農水省の許可を個々にいただきます)を使用します。

 もちろん、これらの医薬品や海外の医薬品、動物用医薬品は、動物への安全性や有効性が認められている薬品であり、日本に同等の動物用医薬品がないものに限られます。もちろん、できるだけ動物用医薬品を使用することが理想ですが、必要な薬品のほとんどが日本では動物用としては製造・認可されていないのが現状です。

 薬品には、元々人医用も動物用もあるわけではなく、全て同じ成分・品質です。動物用医薬品とは、国に認可されている薬品を指しますが、日本ではまだまだ小動物獣医療が重視される環境になく、国の認可制度や開発コスト、市場規模なども関与し、動物用医薬品の開発や製造が少ない状況です。また、動物に使用できる薬効成分や適性投薬量、投薬適合性などの調整は、非常に難しいものとなります。

 薬物治療は、身体にとって有効な薬効が役に立つ医療や獣医療の中心的な治療法です。しかし、薬剤は身体にとって負担や有害となる副作用や過剰投与というものもあり、できるだけ薬剤は使用しないという考え方は医療や獣医療の基本です。しかし、投薬の危険性よりも病気の負担や苦痛の方がはるかに危険であることが多く、薬物治療を行わずに疾病を放置する危険性は高く、やはり薬物療法は重要な治療ということになります。

 例えば、動物の自然治癒力を過大評価し、「自然治癒力に任せるべき」という議論が時折なされますが、根本的に自然治癒力では抗しきれないから病気になるわけですから、この治癒力をすべて否定するつもりはありませんが、過度の期待をかけることは動物を苦しめるだけでなく、生命の危険にもつながります。この低下した治癒力をどのように助け、そして高めてあげることができるか、高められないのであれば今後の補填をどうするのか、これが治療の原則です。

 また、犬や猫たちに動物ということだけで動物の強さを期待される方もいらっしゃいますが、動物は人に比べて優れた部分をたくさん持っていますが、今の社会ではむしろ弱者でもあります。また、野生動物としてではなく人と共生する現状では、強い種だけが淘汰されている野生動物とは大きく異なり、適者生存ではなく弱い個体も幸福に生きていける動物福祉の元の生存です。このような状況で、本来動物が持っているべき治癒力だけに頼るのは、危険な発想であると言わざるを得ません。

 薬物治療の原則は、薬剤の特性をしっかり理解し、薬効や薬用量、調剤方法、副作用、投薬禁忌、併用禁忌薬などを熟知し、適切に処方することであり、特に薬品自身の危険性と濫用・誤用のリスクに注意し、これらを徹底することで薬物治療のリスクは最小限にすることができます。ただし、薬物治療の危険性は、実は薬剤の処方よりも処方された後の投薬の状況にあることが多いのも事実です。

 病気の相談を受けた際に、必ずするアドバイスは、治療や投薬を獣医師の指示通りに行うこと、疑問や不安があればしっかりと主治医と相談すること、特に自分や周りの意見、情報などは大切にしつつそれらに惑わされることなく適切に取捨選択し、これも迷った時はしっかり相談すること、この2点です。このような相談の中で、病気の悪化や治療の効果不足はこれら2点ができていないことが原因になっていることが多いです。本来は、このようなお話もインフォームドコンセントであり、前もって主治医から説明されていないことも多いのですが。

 そのため、最近では投薬コンプライアンスが大事であるという考え方が普及してきましたが、実際には世の中にお薬という存在が現れたときからこのコンプライアンスは、守らなければいけないことです。投薬コンプライアンスとは、医師や獣医師の指示通りに正しく投薬することで、決められた「量・時間・期間」を守って確実に投薬を行う「投薬遵守」を言います。このコンプライアンスについて、説明をする機会が多いのですが、これを理解していないことが治療の失敗や副作用の発現を助長してしまうと言っても過言ではありません。

 動物への投薬量は、人のように成人、小児、幼児などの区別ではなく、基本的には体重や体表面積から算出しますが(体重が100g違うだけで投薬量も異なります)、動物種や年齢、代謝、体質、体調、病状、疾患、薬品の種類などによって全て異なります。また、薬剤によって全ての薬用量は大きく異なり、同じ薬剤でも使用目的によって薬用量は変化します。同じように薬剤の副作用や使用禁忌、使用する剤型や投薬方法も上記の通りに異なります。

 一般的には、犬や猫でも使用する薬剤は異なることもあり、薬用量も投薬量も異なります。特に種差や品種差、年齢差は要注意で、犬に投薬できても猫では禁忌、あるいはシェルティ種は禁忌というようなことも少なくあります。また、同じ薬剤でも使用する年齢で大きく変わることもあります。

 最近では減りましたが、今でも時折ご自身の医薬品を減らして動物に投薬される方がいらっしゃいますが、これは誤用であるだけでなく非常に危険なことです。薬品によっては、人の数倍も服用しなければ効果の出ないものや数十分の一の量でも毒性が出る薬品もあります。

 薬品の効果は、効果のある薬品量が体内あるいは患部にいきわたった時の濃度(薬効濃度)と持続時間によって左右されます。効果が認められる濃度を持続させられるか、これが薬用量と投薬回数を決める根拠となります。簡単に言えば、服薬量が少なければ薬効濃度に達することはなく、服薬回数が少なければ薬効濃度を持続することができません。これらは、点眼薬や点耳薬、点鼻薬、外用薬なども同様です。

 例えば、1日2回、1錠ずつ服用する薬品があるとします。この情報だけで、この薬品は1錠より少ない服薬量では効果が出ないこと、薬効の持続時間は半日くらい、ということが分かります。投薬量や回数が少なくなれば、薬剤の有効時間も短くなり、薬剤が効いている時間と効いていない時間=病気が治っている時間と悪化しているあるいは治っていない時間、ということになり、薬効時間が持続できなければ薬効は半減するばかりか全く発現しないことも多く、薬剤耐性の発生や副作用の発現、病状の悪化も考えられます。もちろん、投薬量と投薬回数を多くすることは、薬効も強化されることもありますのでそのような使用もありますが、副作用や毒性の発現の可能性も大きくなることに留意する必要があります。

 投薬量や投薬回数を少なくすれば、少しだけ効く、優しく効く、などというようなことはなく、全く効かない、あるいは薬品耐性ができやすいなど必ず問題が起こります。

 投薬期間は、あくまで病気や病状がしっかり治るまで、しかも治りきって再発や再燃、悪化が起こり得ない状況まで、しっかり行う必要があります。最初に症状が改善しても、あくまで薬剤の効果で良くなっているだけで、これは治癒ではなく緩和であり、ここで投薬をやめてしまうと症状は再燃します。だいたい症状が消失してから1〜2週間の投薬が必要と考えられていますが(例えば胃腸薬や抗生物質など)、病気の種類や病状の重篤度、慢性および難治性疾患などはより4週間あるいはそれ以上の長期の投薬が必要となります。このように、早期に薬物治療をやめてしまうと病気の再燃や再発ばかりでなく、薬物治療への耐性の獲得によって後の治療にも影響しかねません。また、病状も再燃と悪化を繰り返すことで徐々に疾病は進行していき生命に関わることとなり、そこまでの進行がなくともさらに疾患の慢性化や難治性化を引き起こします。ただ治すだけではなく、最後までしっかり治すこと、最良の状態に治すことが最も重要です。

 また、薬剤によってはリバウンドを起こすものもありますが、このリバウンドは薬剤の性質のために起こるもので、副作用ではなく正しく使用すれば何ら問題はありませんが、急な投薬中止によって起こります。このようなリバウンドは減薬や多剤への移行で十分防ぐことができます(副腎皮質ホルモンやH2ブロッカーがこれに当たります)。もちろん、薬剤にはリバウンドがないほうが良いのですが、残念ながらこれらの薬剤の効果は非常に優秀で、他に代わる薬剤がないためやむを得ない部分があります。

 このように、薬剤を使用するにあたってこのコンプライアンスを守らなければその効果は表れないばかりか、デメリットが大きくなってしまいます。ご自身の判断で投薬量や回数、期間を変えてしまう方がいらっしゃいますが、実はむしろとても危険なことです。また、安易に投薬や服薬をすることも危険ですし、薬剤に対して必要以上に不安を抱いたり、その気持ちのまま投薬を続けることも決して良い結果を生みませんので、このような場合は必ず主治医と相談してください。

抗生物質について
 動物の身体は、細菌感染や可能に対して防御能が弱く、また細菌が感染巣に遺残しやすく、一度感染が起こると容易に身体から排除できません。併せて体調不良や疾患の際は、免疫力が低下しており、さらに感染防御能が弱くなります。そのため、抗生物質(抗菌薬)は人医に比べて長い投与期間が必要となるため、疾病毎の効果や長期投与の安全性、特に耐性菌の出現や菌交代現象や副作用の予防など徹底して考えて投薬することが原則となります。この原則を守って行われる抗生物質投与は、決して危険なものではなく、安全であると言えます。

 例えば、細菌感染による皮膚炎や膿皮症、膿痂疹は、軽症や浅在性の場合でも症状が治まってからさらに2週間の抗生物質投与が完治に必要であり、重症例や深在性の場合はさらに4週間の抗生物質治療が推奨されます。細菌性膀胱炎や胆管肝炎、胆嚢炎でも、軽症であっても最低3〜4週間の抗生物質投与、さらに前記のように症状が落ち着いた後にも長期の抗生物質治療が推奨されており、これらを怠ると大半の症例で疾患の再燃や再発、慢性化、難治性化が起こります。

<抗生物質の強さ>
 抗生物質はよく強弱で語られますが、厳密には抗生物質を単純に強弱で比較することはできません。しかし、下記のような考え方ができます。

@抗生物質によって細菌の増殖を抑制することのできる最小濃度をMIC(最小発育素子濃度)と言います。抗生物質の濃度が低ければ、当然最近の増殖を抑えることはできず、逆に抗生物質の濃度が高いほど最近の増殖抑制作用も強くなります。そのため、このMICが少ない薬剤ほど少量で細菌の増殖を抑えるということとなり、抗生物質の作用が強いといえます。ただし、このMICはそれぞれの細菌の種類によって異なり、全ての細菌に対してMICが低いという抗生物質は存在しません。
  また、このMICはあくまで生体外での反応であるため、抗生物質の薬物動態に左右される体内との反応とは異なります。そのため、このMICのみで単純に抗生物質の強弱は比較できません。

A抗生物質には、静菌作用(微生物の発育・増殖を阻止する作用)と殺菌作用(微生物を殺滅する作用)という作用機序があり、作用によって2種に大別されます。ただし、殺菌作用のある抗生物質が静菌作用のある抗生物質に比べて強いということはありません。

B抗生物質には抗菌スペクトルというものがあり、有効な細菌の種類と数が分かっています。いろいろな細菌に効果を有する場合、広域スペクトルと言われ、特定の細菌にのみ効果を表す抗生物質は、狭域スペクトルと言います。ただし、多くの細菌に効果を有することが抗生物質の強弱とはなりません。

C投薬回数は、その抗生物質がどの程度の時間、薬効濃度で体内に残り効果があるか、ということで決められます。そのため、回数が少ないから強力であるということはありません。

D抗生物質の血中濃度を考えるとき、ある一定の薬効濃度を長時間維持することで効果を発する抗生物質(時間依存性)と血中濃度が高いほど効果が高くなる抗生物質(濃度依存性)があります。濃度依存性抗生物質が強いという訳ではありませんが、1回の投薬量の最大化と投与回数の最小化によって、耐性菌の出現を抑えることができると考えられています。

<抗生物質の選択>
 感染症を引き起こす細菌は無数にあり、治療に使用する抗生物質にも多くの種類があり、膨大な数となります。前記のように、抗生物質が作用する細菌は異なり(感受性が異なる)、感染症ごと、原因菌ごとに適切な抗生物質を選択しなければ治療はできません。ただし、この原因菌をすぐに特定できないことが大半であり、そのため抗生物質を選択するには、いろいろな考え方が必要となります。

〇感染部位により原因菌を予測し、その原因菌に効果のある(抗生物質感受性のある)可能性の高い抗生物質を選択します。

〇抗生物質の体内分布と組織移行性などの薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)を考え、その感染部位へ効果を発揮しやすい抗生物質を選択します。

〇抗生物質での治療を行う場合、上記のように原因菌の予測と組織移行性を考え、その2つの要素を満たす抗生物質を選択します。この時、できれば上記Bの抗菌スペクトルを考え、できるだけ狭域スペクトルの抗生物質を使用することで、耐性菌の出現を抑えるようにします。

〇病変部より原因菌を採取し、細菌培養検査および抗生物質感受性試験を行うことで、適切な抗生物質を選択する条件のうち、感受性と抗菌スペクトルからの選択が可能となります。

〇耐性菌は、特に複数の薬剤に耐性を獲得した細菌やウイルスなどの病原微生物である多剤耐性菌が大きな問題となっています。この原因は、病原微生物の突然変異によるものですが、実際には薬剤の長期使用や濫用、誤用、コンプライアンスの不遵守によって起こることが知られており、しっかり考えなければいけません。医療の質が問われています。

〇この耐性菌は、動物個体の生命に関わることになり、その時病気が治っても後々に影響することとなりますので、ただ治すのではなくしっかり治すこと、そして最良の状態に治すことが大切です。また、これらの耐性菌は動物個体の問題ではなく、環境にも影響するため、他の動物および人にも大きな問題となります。

〇実際に感染症を治療する際、地域によって原因菌が異なることが分かっています。これは、風土や環境も関わっていますが、その地域の薬物治療の内容が大きく関与しています。例えば、抗生物質の選択を改善することで、肺炎球菌が撲滅された地域もあります。

<エンピリックセラピーとディ・エスカレーション>
 前記の考え方では適切な抗生物質の選択が難しいこともあり、また予想外の原因菌である疾患であることも少なくなく、結果的に適切な抗生物質が選択されていないために治療が正しく行われないこととなる場合もあります。特に重篤例や緊急時、容体が悪化している時、早急に治療が必要であるような時、動物の負担や苦痛を和らげられないばかりでなく、治癒も不可能となり、致命的になってしまうこともあるため、広域スペクトルの抗生物質を使用します。ただし、薬剤の副作用や耐性菌の問題となるため(実際には、この治療のために現在問題となっているMRSA、VRSA、VISA、VRE、PRSPなどが出現することとなりました)、これらの治療を繰り返すのではなく、初期治療と最適治療を分け、抗菌治療を最大限引き出しながら、副作用や耐性菌の出現を抑えるようにします。

〇エンピリックセラピー(経験的な治療):初期治療
 感染症を発症した時、基本的には原因菌を特定して治療を開始することが原則ですが、原因菌の同定まで時間がかかるため、原因菌の予測と薬物動態を考え、原因菌に感受性のある可能性の高い広域スペクトルの抗生物質を使用します。

〇ディ・エスカレーション(最適治療)
 原因菌が判明することで、最適な抗生物質の選択が可能となります(もちろん薬物動態を考慮します)。この際には、主に狭域スペクトルの抗生物質を使用します。この選択により治療の最大効果(原因菌に対して大きな効果があるため、早期の治癒が期待できます)が得られるだけでなく、薬剤の副作用の軽減(特に腸内細菌の乱れ)や耐性菌の出現抑制(薬剤の使用量の減少と治療期間の短縮による)が可能となります。

ジェネリック医薬品について
 新薬は開発メーカーが独占的に製造販売しますが、特許期間20〜25年を過ぎると、他のメーカーも
同じ成分で同じ効果を期待する薬を製造することができます。

 新薬を「先発医薬品」と呼び、特許が切れた後に発売される薬を「後発医薬品」と言います。欧米では、
後発医薬品は成分の一般名(generic name)で処方されることが多いため、ジェネリック医薬品と
呼ばれています。
 
 新薬は成分の開発から始まり、有効性や安全性について動物試験、臨床試験などを経て、
数々の審査を受け、承認・申請の手続きにも多くの書類を提出しなければなりません。

 1つの薬を開発するのに、10〜15年の歳月がかかり、150〜200億円にのぼる研究開発費用が
必要になります。しかも、研究開発を始めて新薬として承認される確率は、4000分の1以下とか。
 
 このように薬の開発には膨大なコストがかかり、リスクもあり、薬価は高価にならざるを得ません。ところが、
後発医薬品の場合、既に先発医薬品で有効性や安全性は証明されています。

 品質の安定性や新薬との同等性を証明する試験を行い、基準をクリアすれば厚生労働省の製造承認を
得ることができます。その結果、開発期間は3〜4年に縮まり、コストも大幅に削減できるのです。したがって、
後発医薬品の薬価は、先発医薬品の8割以下と定められています。

 獣医師は、先に述べた通り投薬量が個々に異なるため、医薬品は製品名ではなく成分名で扱う事が多く、
加えて自ら薬剤師としての役割(薬の投与量や効能効果の適正性、誤用や副作用を防ぐなど)を担うことが
多くなります。あわせて、獣医療の診療費は保険制度ではなく実費負担になるため、
患者さんの負担の軽減も考え、ジェネリック医薬品を使用する習慣が元々浸透しており、薬の効果に問題が
なければ積極的に採用されています。
 
 最近では、マスコミの風潮で価格だけでジェネリック医薬品を勧める傾向がありますが、これは大きな
誤りです。もちろん、現状の薬剤の処方における問題点も多々あり、〜医師の薬剤に対する知識の不足、
商品名で判断する体質、採算を度外視したシステム、医療費の高騰など〜
これらの問題の解決の一助に、ジェネリック医薬品の積極的な採用は効果を挙げるでしょう。

 ただし、あくまで医薬品は効能効果と副反応の度合いで判断するべきで、
製剤によって効能効果に差が出る事もありますので、しっかりと見定めてから検討することが必要です。

在宅での皮下点滴治療について
 皮下点滴をご自宅で行うことは、決して100%安全ということではありませんが、飼い主さんの努力と獣医師や動物看護師との連携で、その安全性は確保されますし、リスクを冒してでもどうしても必要なことがあります。その理由は、遠方の方やご高齢の飼い主さん、その他飼い主さんのご事情などでこまめに通院が難しい場合や病状の重さや動物の性格など通院が動物の負担になる可能性が高い場合です。その際には、必ず在宅治療のリスクと定期的な通院の必要性をお話しします。なぜなら、このような在宅ケアを選ばなければいけない動物ほど、本来は通院していただく必要があるからです。

 そもそも皮下点滴は、一般的な投薬や食事療法などの内科治療で維持が困難な場合や病状が重篤な場合に行われる治療法であり、主には体調不良や脱水症状、尿毒症の改善を期待して行います。そのような場合は皮下点滴という治療だけではなく、問診や診察、定期的な検査による体調や病状の把握、予後の判定が逐次大切になるからです。

 皮下点滴が必要になる疾患は特に慢性疾患であり、入院治療である静脈内点滴や高カロリー輸液を必要としないかあるいは行えない、効果が期待出来ない症例になることがほとんどです。大抵は、老齢や重症例が対象となり、脱水症状の改善や維持、電解質補正や補給がその処置の目標になるわけですが、実際には身体が楽になることや元気になること、食欲増進などが求められ、かつ重要な効果だと考えられます。代表的な疾患は、慢性腎不全(時に急性も)や消耗性疾患、悪性腫瘍、老化などです。特に動物の腎不全は、仮に急性期を乗り越えたとしても慢性腎疾患が後遺症的に残ることがほとんどで、この慢性疾患もいつ突然急性化するかは予測が出来ません。そのため、治療や維持を兼ねて皮下点滴が有用なのですが、可能であればACEIやARB、Caブロッカーや吸着剤、吸リン剤、サプリメント、食事療法、基礎疾患の治療などで維持が出来ることが理想です。仮にこの治療で維持が可能であっても、治療に皮下点滴を加える意味は十分ありますが、それこそ適切な医療か過剰な医療か、予防的措置かやりすぎか、悩むところでもあります。

 在宅での皮下点滴を含めた治療には、良い点と悪い点があります。良い点は、通院無しに治療が出来ること、飼い主さんと動物の通院の負担が軽減できることです。費用も、病院で点滴を受けるよりは安く済みます。

 では悪い点はというと、まずは問診が出来ない、体調の管理が評価できない、細かい変化に気付かないことが多い、細かい相談が出来ないということがあります。これは、定期的な通院やお電話での相談などで充分フォローはできますが、毎回診療しているよりは確実に劣るでしょう。しかし、病状が安定していて、診療をしないでも良いと判断できる状態であれば、十分行えるはずです。
 
 次に悪い点は、点滴しても良い状態かの判断が正しいか、手技がしっかりしているか、これに尽きます。組織の損傷や壊死、皮下脂肪織炎、皮下膿瘍、発熱などが皮下点滴の副作用ですが、これらは明らかに在宅医療のリスクとなりますが、飼い主さんが注意を怠らず、手技に精通することでこれもフォローが可能なはずです。

 また、在宅医療は、安心できるおうちのはずが、信頼できる飼い主さんのはずが、という不安を動物に与えるのではないかと心配されることもありますが、これは大きな問題にはなりません。

 必ず客観的にメリット・デメリットを検討して、頑張りましょう。

処方食について
 処方食(特別療法食)は、栄養学の進歩と共に、特定の疾病の管理や予防のために、
特別に栄養成分を調整した食餌です。現在の獣医療では、なくてはならない治療法のひとつと
言えます。

 効果が高い反面、使用を誤れば効果が不十分なだけではなく、有害な反応を引き起こしてしまうため、
獣医師の処方や指導の元でのみ使用できます。そのため、処方食は本来、ペットショップや通信販売で
扱われるべきではありません。また、知識に欠ける不勉強な獣医師や飼い主さんの処方も危険です。
現実問題として、誤った使い方をされているケースも多く、必要ない例に使用されていたり、
なんにでも特別療法食がいいというわけではありません。

 例えば、皮膚疾患や肝臓疾患、消化器疾患、アレルギー疾患、泌尿器疾患、特に尿路結石症、
内分泌疾患特に糖尿病など、動物の中には、食事療法で辛い思いをせずに生活できている例が多くいます。
反面、アレルゲンが不明確なアレルギー疾患、診断が不確定な肝臓疾患や消化器疾患、
結石の種類を同定していない尿路結石症など、この時点で食事療法を行うことは誤りで、中には悪化させて
してしまっている事も少なくありません。

○皮膚疾患:皮膚疾患があると、アレルギー用の処方食→アレルギーでなければ意味なし、
         原因に対しての食事療法が必要
○肝臓疾患:メーカーが推奨する肝臓疾患用の処方食→原因や疾患の種類によっては無効
         または悪化も、疾患の種類にあわせて選択
○消化器疾患:高消化性処方食→原因にあわせて低脂肪、高繊維、アレルゲン除去用など
○尿石症:ストルバイト結石用処方食→尿検査・結石分析によって結石に合った処方食を選ぶ事
○アレルギー:アレルギー用処方食→アレルゲンを同定して、原因物質を使用していない食事を選ぶ事
など

<食事療法の落とし穴>
 市販で低アレルギー食という製品があります。厳密には、この名称は誤りです。低アレルギー食という
漠然としたものは世の中に存在しません。もちろん、食材を厳選し、添加物を使用していないという食事は、
ある意味低アレルギー食と言えるかもしれません。ただし、それは、制限付の低アレルギー食です。
つまり、市販の低アレルギー食とは、比較的アレルギーを起こす可能性の少ない食材で製造されています、
という意味であって、アレルギーの患者さんには大きな意味のないものです。

 アレルギーの原因になるアレルゲンは、個体ごとに異なります。ということは、低アレルギー食は、
個体ごとにアレルゲンを吟味して作られたもの以外にあり得ないのです。従って、低アレルギー食というのは、
個体ごとのオーダーか、それぞれの状況に合わせた細かい食材の選択をする、食材の質を高める、
添加物の使用を極力控える、製造が必要です。また、その中から動物に合った食事を選択しなければ
いけません。出来れば、アレルゲン同定検査を行ってから食事療法を始めるか、
それが無理であればしっかりとした評価を加えながら、試験的に給与を行っていくべきです。

 例えば、アレルゲンになりやすい肉や米、卵、これらを使用しないことが市販の低アレルギー食には
多いのですが、牛肉や卵がアレルゲンにならない動物には、この食事は特に低アレルギー食ではない
のです。

※以前の資料などには「食餌」と記述しており、獣医療ではこれが正式な用語になっています。
が、「餌〜えさ〜」という言葉はやはり適当とは思えませんので、今後は「食事」と表現させて頂きます。

処方食(特別療法食)のネットやショップでの購入の危険性について
 処方食(特別療法食)をネットやショップで購入する方が増えています。便利でやや安価、当然のことだと思います。
食事指導を行わず、食事療法を徹底しなければ、大量入荷して品質管理を行わず、メーカーとダンピング交渉をすれば、
それは安価に販売できるに決まっています。でもこれは治療とは言えません。ただの量販店と同じ、仲買業です。

 この危険性については、以前にも書かせて頂きましたが、
最近になってやっとこれを危惧し批判する獣医師も多くなってきました。ただしこのような事態は、
獣医師が作っているという事実もあります。それは、お金儲けのために通販で販売する獣医師、
食事療法を行うに当たって細かい指導を行わずに処方食を販売する獣医師(これもお金儲けですね)、
処方食の使用を根本的に誤っている獣医師です。彼らがいるから、飼い主さんにはその重要性も危険性も伝わらず、
食事療法が中途半端になってしまいます。

 転院されてみえた患者さんの大半が食事指導を受けずに処方食を使用し、
半分以上が処方食の選択を誤っています。処方食は、基本的にメーカーが定めた基本があり、
それぞれ肝臓病用や心臓病用というように販売されています。栄養学を勉強していなくても、
これに従えば簡単に食事療法が行えるのです(実際は、行えているように思えるだけですが)。

 でもここに問題があります。成分も品質も効果も考えず、ただ処方食を食べても、
効果がないばかりでなく悪化する可能性もあるわけです。増してや、食事量も、使用する期間も、
経過も診なければどんな事になるか分かりません。

 同じ臓器の病気でも、体質が異なり、種類や年齢が異なり、病態が異なり、原因が異なります。それぞれについて、
しっかりと細かく考察し、栄養学的にどんな治療が必要か検討し、それに合った処方食を選ぶ、
あるいは適合する処方食がなければ食事の組み合わせを指導する、これが食事療法です。

 例えば、肝臓疾患を挙げてみましょう。肝実質の機能障害、肝門脈体循環シャント、高アンモニア血症、胆道系疾患、
胆泥症や胆石・・・、すべて食事療法は異なります。例えば尿石症は、ストラバイト、蓚酸カルシウム、尿酸塩、
数種の合併型・・・、これも全て異なります。

 このように、処方食は、基本的に診療を行って初めて処方が出来る食事です。
これは、この食事が適切に用いられれば身体に良い効果を表しますが、
逆に負担や疾患を引き起こす可能性があるためです。また、食事療法中は、
定期的に問診や体調のチェックを行い、効果と副反応の有無を確認しなければいけません。
あくまで、動物の身体に害を与えない事を主眼に、合わせて効果を判定し、
治療の内容を再検討するためのものであります。
 
 また、食事療法は健康管理と共に治療の一環でもあり、その効果と副反応を考えた場合、
治療行為ないしはお薬の処方と同等のものと認識され、単なるペットフードとしては扱われておりません。

 処方食での治療を始める際は、食事療法が本当に必要であり、処方食をその治療に利用できるか検討し、
効果が期待できるかまず考えなければいけません。その後、品質と効果を考えて有効な種類を選び、
食事の嗜好性と食事量を検討し、同品質同効果であれば極力低価格のフードを選び、摂取栄養量とカロリーを計算し、
今後の計画を組み立てます。この際、効果の判定を行うに当たって、症状ないしは検査結果、
その療法で行う事になりますので、その間隔と日程の予定を大まかに決めることになります。

 そのため、原則としてネットやペットショップで、飼い主さんが選択して購入するという方法は、禁止されています。
が、法的な拘束力がなく、あくまでメーカーと獣医師の倫理による申し送りであり、個々の善意による判断に任されています。
実際はペットショップも動物病院を併設すれば獣医師の指導もなく販売でき、
通販に至ってはさらに無責任な販売方法とも言えます。

 実際は、メーカーに依頼してご自宅へ配送する事はどの動物病院でも可能です(一定金額以上であれば、
送料は無料です。メーカーによっては、配送できないものもあります)が、
この場合定期的なチェックを行っていることで可能なわけです。

 もちろん、安価に販売でき、手に入れやすいというメリットは飼い主さんにとって悪いことではありません。
しかし安価に販売する裏側には、メーカーとの特約を結んで動物の体調主体ではなく、
利益重視での処方食処方が行われたり、大量入荷で仕入れ価格を下げるため、
フードの期限や管理に問題が起こる場合も多々あります。
これは、すでに医療行為ではなく、薄利多売を標榜する量販店と同じです。
手に入れやすいということは、細かい治療ではないということです。

 例えば他の獣医師が処方したお薬や治療を別の獣医師が指導できないのと同じように、
品質のチェックや管理を自分で行っていない療法食に対して、指導や管理が細かく出来ないという問題が起こります。

 基本的には、かかりつけ医で療法食を購入されなくとも、健康や疾患の管理はしっかり出来ますが、
療法食についての細かい指導などには出来ない部分が出てきてしまうという問題が生じます。
その点は、飼い主さんにご考慮いただく必要があります。

 先に書いた獣医師の責任、これは実は獣医療の問題の中でとても大きなウェイトを占めています。
ワクチン接種の接種率の低下もそうでしょう。ワクチンの必要性や種類の検討、指導や副反応の告知、
副反応への適切な対処、接種前の説明と身体検査など、ワクチン接種に当たっても本来はこれだけの仕事があります。

 これらの行うべき医療行為を行わずに、ただワクチンを接種していれば、時間も労力も省け、良いお金儲けになります。
問診も身体検査もしなければ、副反応の温床にもなります。あるいは、この時に見つけられたであろう病気も見落とし、
病気の早期発見のチャンスも逃してしまいます。生活や食事、しつけの相談なども出来るはずです。
それら全てを行わずにワクチン接種をする獣医師が多いから、飼い主さんたちも必要ないんじゃないか、
お金儲けじゃないのか、そう思ってしまうのです。

 フィラリア症予防での予防時期の誤りや違法な薬剤の投与、検査を省くなどの問題も、
ごく単純な勉強不足であり、手抜きであり、モラルの欠如でしかありません。

 行うべきことを正しく行う、その積み重ねの上により高度で緻密な医療が成り立つと思います。
実に簡潔で単純でシンプルなことですが、これが行われない現状に、大きな危惧を感じます。

検査の考え方
 明確な診断、あるいは診断名をつけることは診療においては基本中の基本です。ここでいう診断とは、医学的にあるいは獣医学的に語られる診断ではなく、臨床医学的にあるいは臨床獣医学的に語られる診断を指します。前者は、確定診断となりますので結果的に生検や外科手術、病理解剖などが必要不可欠となります。後者は、問診や身体検査、臨床検査、診断的治療、治療効果による推測など、限りなく確定診断に近いながら100%の確証がある診断ではありません。

 生きている間に正しい診断が下されることは少なく、死亡してからの病理解剖で適切な診断が下される、という医学界の病理医の格言にある通り、100%の診断は実は難しいことも多く、それが全てという訳でもありません。

 診療で求められるのは、あくまで後者の診断です。もちろん前者の診断が下されればより良い診療が行えるのは間違いありません。しかし、動物や飼い主さんの負担や苦痛がその診断に伴う場合はそのメリットとデメリットをしっかりと考えなければいけませんし、確定診断が患者さんにとって必須ではない場合が多いのも事実です。また、あってはいけないことですが、診断にこだわりすぎるあまり患者さんを蔑ろにしてしまう、いわゆる病気を診て患者さんを診ない、こんなことは本末転倒です。

 しかも最も重要なことは、診断が成り立たなくては正しい治療は不可能であり、病気の予防や進行の抑制、予後の判定などもできるはずがありません。
 
 ただし、ここでいう診断とは臨床診断であり、仮に1つの疾患に絞り切れなくても、いくつかの疾病に絞り込むだけでも十分とも言えます。むしろ、獣医療の現状ではここが限界でもあります。このような場合、経過を診ながら類床鑑別診断を行うことでさらに正確な臨床診断が可能になりますので、正しい治療や予防、予後判定も可能になります。

 しかし、獣医療では驚かれるかもしれませんが明確な診断をくださない獣医師が多く存在します。その理由は、そのような教育を受けていないということに逃げる者がおりますが、それは違います。はっきり言えば、獣医師に根拠に基づいた診断や治療を行う意識が希薄であること、そして寂しい話ですがその知識や技術が足りない獣医師が多いこと、これが現実です。そしてそれは、獣医師の、獣医療の、獣医業界の未熟さであり怠慢であるとしか言いようがありません。

 僕は、仮に確証が少なくとも必ず診断名を、あるいはいくつかの診断に絞り込むことを必ず行っています。ただし、これらを行うには慎重に、そして足りないながらも根拠をもって行うという基本が大切です。この方法で行う診断が、全く方向違いであることは皆無です。もちろん、それが誤っている可能性も考慮に入れつつ、いつでも見直し考え直せる意識を持って診療を進めます。見えない病気と戦うことは不可能であり、病気が見えて初めてできることも生まれてきます。

 全く見当のつかない獣医師に最適な治療を望むべくもなく、何にも分からない獣医師に治療法や予後の判定などできるはずもありません。反して、分からないことが分かっている、あるいは何が分からないか分かっている、これこそ臨床診断をつける最大の利点となります。

 これらの実践には、詳しく適切な問診から可能性のある疾患を予測し、的確な身体検査である程度の鑑別を行い、これらを確定し分類するために、あるいは類推するために必要最小限な臨床検査を選択します。そのうえで、さらにきめ細かい検査が必要であるか、何が得られるか、その得られるものはどの程度必要か、これらを考察します。この検討を土台に、これらの検査を行う利点と欠点を比較し、技術的な問題点、動物の肉体的および精神的な負担、飼い主さんの経済的および時間的な負担や制約なども考慮に入れ、臨床検査の項目や順序を臨機応変に確定します。

 臨床検査は、健康診断や予測不可能な疾患を見つけていくスクリーニング検査と、得られた所見から類推された疾患を確定するために行う検査に分かれます。これらを正しく適切に行えば、病気であるのかどうか、病気である場合はその病態や病状、そして何が苦しく痛いか、どのくらい痛く苦しいのか、予後はどうなのか、病気でなくとも隠れた病気がないか、今後に危険性のある病気、それらの予防手段などを理解する手段であるとともに、現在行っている治療や検査が適切であるか、効果の評価、副作用の有無、合併症の早期発見など、多くの情報が得られます。

 ですから、何でもかんでも検査すれば良いというわけではなく、また当てずっぽうに検査をしても全く役には立ちません。ただし、全く予測もつかない、あるいは予測できる疾病が絞り込めないことも少なからずあり、このような場合はスクリーニング検査から篩にかけるように多項目の検査に頼らざるを得ないこともあります。

 常日頃から飼い主さんにはお話ししておりますが、検査は検査項目を検討し始めた時から始まっており、その検査が効果的か非効率的かということは検査前に実は分かっているのです。

 また、検査で大事なのはその検査の方法です。基本的には、臨床検査には絶食が必要です。食後であったり胃内に食事が残っている状態では、正確な検査結果を得ることは不可能で、結果の考察はそれこそ論外です。例えば血液化学検査では、食事は肝酵素や腎数値、などに影響し、血糖値や脂質値は判定すらできません。血清中に脂肪が多いと、血液学的検査や内分泌検査、アレルゲン検査なども不可能です。また、胃腸内に残さが多く残っている状態では、胃腸の診断ができないばかりでなく、その内容物により臓器が陰に隠されてしまったり、臓器の圧迫や変位を引き起こします。また、検査中に嘔吐などの問題が起こることも危険です。超音波検査でも、心臓の圧迫や胆嚢の変化など支障をきたします。

 さらに、検査の方法も重要です。その手技が稚拙であったり雑であれば、動物の苦痛や負担、症状の悪化を引き起こします。採血では、その手技によって溶血や凝固が起こり、検査結果が著しい異常値となります。X線検査や超音波検査では、撮影条件〜その姿勢と部位、身体へのテンションのかけ方、呼吸、記録条件(電圧や電流、絞り、露出時間、エコーレベル)など〜を最適な状態で撮影できなければ、正しい撮影写真や動画は得られず、誤った診断結果あるいは何も分からないという結果を生み出します。
 
 このように、適切な項目を正しく検査することで、初めて検査結果の評価や考察、検討をしてもよい状況になります。検査結果は、複数の検査結果を多角的にそして総合的に評価します。そのためにも、検査項目あるいは検査検査の種類は多くなることが多く、情報があればあるほどそこから導き出される答えは、より精密で、より正確であると言えます。 
 
 例えば、肝酵素が高い場合、それだけで肝臓疾患とは言えません。肝酵素は、不適切な採血や消化器疾患、骨や筋肉の損傷などで高値を示すことがあり、逆に重度の肝硬変や

 胆道系疾患では変化がない場合や低値のこともあります。また、肝臓腫瘍でも肝酵素に変化がないことが多いです。これらを考察する場合、腹部触診は重要であり、さらにX線検査での肝臓やその他の臓器の位置や大きさ、形状、陰影、および超音波検査での肝臓や胆嚢、胆管、膵臓、胃腸などの内部の評価を加味することで臨床診断はある程度まで鑑別することができます。そのうえで、血液特殊検査や内分泌検査、X線造影検査、肝生検、CT/MRI検査などを検討することができます。
 
 例えば、BUN/Cre値が正常であっても腎機能が正常とは限りません。これらの数値は、少なくとも腎機能の1/2、多くは1/4以下にならなければ異常値にはなりません。また、これらの数値は血中の尿毒症物質を測定して腎機能を類推しているだけですので、本当の腎機能を表していません。さらに肝臓疾患や蛋白合成不全、栄養障害などではむしろ低値を示します。これらを正確に診断するには、尿検査やUPC、SDMA値、X線検査や超音波検査、血圧測定などの追加検査でかなり精度が増します。しかし、内分泌疾患や腫瘍などの合併症や心臓疾患などにより腎機能が低下する腎前性腎不全(特に心腎症候群)、尿管や膀胱、尿道疾患が原因となる腎後性腎不全もあり、腎実質性腎不全でも、結石や高血圧、自己免疫疾患、腫瘍など原因は多岐にわたり、これらはさらに腹部触診や内分泌検査、X線造影検査、腎生検、CT/MRI検査などが必要となります。
 
 血糖値でも、絶食をしていない状況での高値は先に述べましたが、猫ではストレスパターンといって、大きなストレスがかかると仮に一時的でも血糖値は異常な高値となります。これらは、猫を落ち着かせてからの再検査やフルクトサミン、糖化アルブミンの測定、尿検査などで正しい評価は可能となります。
 
 X線検査で心臓が大きい場合、よく心肥大と診断されますが正しくは心拡大と言います。なぜなら、X線検査では心臓内部の構造は分かりませんので、その拡大が心筋の肥大によるものなのか、心房および心室の拡張によるものなのかは鑑別ができませんし、肥大と拡張は全く異なる病態です。そもそも心臓病にはたくさんの病気があり、それぞれ治療法は全く異なります。もちろん、撮影条件や成長時期、その他の疾患により心拡大を誤認することも多く、これらの鑑別と評価には、身体検査とくに胸部聴診が重要であり、さらに血圧測定や心電図検査、超音波検査が有用である。特殊な例では、内分泌検査やX線造影検査、CT/MRI検査、生検などが必要となります。
 
 例えば、定期検診で認められた小さな異常を見過ごされている、あるいは気付いても評価を誤っている、こういう事例も多く診ます。もっと正しく、もっと早く分かっていれば、こういう悔しい思いをしたことが数多くあります。これこそ、検査を行う意味を成さない形だけの検査であり、金儲けと揶揄されても致し方ない、あるいは藪医者と罵られても言い返すことができない、それこそ負担と苦痛だけの行うだけ無駄な検査です。見落とすくらいなら、定期検診なんてしなくてよいですから。

 ここにあげた例は多くの検査失宜のごく一部の事例であり、実際にこれらの誤りによって間違ったあるいは不適切な、不必要な治療を受けてしまっている患者さんが数多くいらっしゃいます。たった1つの検査だけでも、動物に苦痛をもたらし、生命にかかわることをしっかりと意識するべきでしょう。
 
 また臨床検査は、話さない動物たちの、痛みや苦しさを訴えない動物たちの、声や意思の表現の代わりになるものであり、検査の実施と結果の考察、そして何より結果を役立てることは動物たちとの会話だと思います。また、負担や苦痛を強いる検査であれば、そこから得られる結果は、それこそ1つも無駄にしてはいけませんし、1つでも多く役立てることを念頭に置くべきです。

 検査は、決して飼い主さんのためではなく、漫然と安心するためのものではなく、あくまで動物たちの過去・現在・未来のためであることを忘れてはいけません。

臨床検査について
 臨床検査は、動物との会話だと思います。問診と一般的な身体検査から始まり、
その状態から仮の診断や必要な検査・治療法を検討します。この時、以前にも書きましたが、
動物には症候が見つけにくい、症状を隠してしまう、Dog Speed、お話ができない、という特徴があり、
これが判断に大きく影響を及ぼすことになります。もちろん、問診を詳しく行うことである程度はフォローできますが、
人のように詳しく本人の状態を本人の口からお聞きすることはできません。
こんな時、検査がこの会話の代わりをしてくれます。

 こちらからの質問が、採血であったり、レントゲンを撮る事、返事の言葉をもらう代わりに検査の結果をもらう、
ということです。
 
 また、どこが、何が、どのくらい辛い思いをさせてしまっているか、または今僕らが気づいていない苦痛や辛さが
存在しないか、どうすればそれを取り除いてあげられるか、この判断をするための情報が得られることが
検査でもあります。

 合わせて、問診や触診、聴診、視診などの五感を使った診断によって得られた結果を、
評価や証明するのも検査の1つの意義であり、考察や検討の重要な要素ともなります。
 
 ただし、検査はただ行えば良い、ということではありません。検査は検査前から始まり、検査後も続いている、
と僕はよく話します。検査を行うに当たって、最低限の必要な検査を選択する事が一番重要で、
闇雲にあるいは当てずっぽうに検査項目を増やしても、的確なものを行っていなければ意味がなく、
根本的に本当に検査が必要なのか、必要であればどんな種類の検査が必要なのか、その項目は何を選ぶのか、
動物に対して負担や危険はどの位あるのか、費用はどの位かかるのか、
結果からどのくらいの病気の鑑別や検討が出来るのか・・・、など検査前から考え考察し、
検討することは山ほどあります。

 しかもこれらを実施するには、問診や身体検査を正しく細かくしっかりと行っている事が前提なのです。
そして得られた結果の考察、追加の検査の有無、結果に対する解釈と今後の診療への役立て方・・・、
検査が終わってもまだまだやらなければいけないことは山積みです。
 
 例えば、骨折で肢が痛い動物には、その状況と症状の問診、視診や触診、関節や筋肉、靭帯などのチェック、
神経反射などをまず診ます。ここまでで、ある程度の病気の絞込み(類症鑑別と言います)を行います。この時、
どれだけたくさんの病気を考えて、その中からどれだけ絞り込めるか、医師の腕にかかってくるわけです。
万が一、この絞込みに骨折という項目が入っていなかったら、診療は誤った方向に行ってしまいます。
骨折の場合は、普通ここまでの診察で仮の診断はできますが、細かい部分の病状や骨折の状況、
その他の評価にはレントゲン検査が必須です。ここで、この検査をもし選択しなかったら、最悪骨折に気づかない、
なんてこともあるかもしれません。的を得た問診や身体検査を行い、的確な検査の項目を選択し、
極力負担のかからないように検査を実施し、結果をしっかり読み取り検討すること、これが鉄則です。
 
 検査には、いろいろな目的と方法、種類があります。目的だけで分類しても、健康診断や軽い症状、
単なる疑いを判断するための検査、病気はある程度わかっているが他の基礎疾患や合併症を見つける検査、
類症鑑別のための除外検査、治療効果や病状、副反応を判断する検査、予後を予測するための検査、
治療法の選択をするための検査、身体に何が起こっているかまったくわからずに行う検査など。

 基本的には、病気が進行する前に、治療を行う前にある程度の検査をして、初期情報を少しでも多く早く得ることが
勧められます。病気が進行してしまったり、治療を行ってしまうと、病態はさらに変化してしまい、
始まりが何かわからなくなってしまうからです。

 この結果から、さらに必要な検査や項目があればその検討を行い(必要性や負担、経済的な問題など)、
診断を進めていくわけです。

 例えば、山を頂上から下るとしましょう。山の天辺は細くて尖っています(初診)。
徐々に裾野に向かって斜面は広くなっていきます(問診や身体検査)。場所によって道は分かれ(検査などの選択)、
斜面が広くなるに従い道筋も増えていきます(結果の考察)。同じ麓(診断)に向かう道でも、
いろいろなルートが出来上がります。それぞれの道には、それぞれの石や砂、
樹木や花が咲きます(体調や病状の変化、種々の事情など)。そして麓の目的地(診断)にたどり着きます。
出来るだけ早く、優しく、楽に迎える道を探しながら。でも、ここはゴールではありません。
自宅(完治)に向かってまた道や手段(治療)を考えなければいけません。

 もちろん、高齢であったり、病状があまりにも重く負担が大きい場合、お金をあまりかけられない場合、
病状や病気の種類によっては、検査を行わず診療を続けることもありますし、
治療の効果を診てから検査を検討することもあります。要は、しっかり考え、相談してこれを行うべきだと言うことです。
 
 また、病状が重い場合や慢性疾患である場合になぜ検査項目が多くなりやすいかと言えば、
検査はそれぞれ目的や方法が違っても、その身体の状態を知るというひとつの目標に向かって行うものだからです。
ひとつの検査の結果から考えるよりも、いくつかの検査の結果を合わせてみることで、いろいろな事や細かい事、
それぞれの弱点を補う結果を得ることができます。いろいろな検査を組み合わせることで、
さらに的確かつ正確な結果を得て、診療に反映させることができます。
 
 例えば、心臓の検査。問診にて心疾患を疑う場合、聴診にて心雑音や不整脈が聴取された場合、
検査を検討します。まず、血液検査にて肝臓や腎臓の機能(合併症の有無)や
心臓から分泌されるホルモンを測定して心臓への負担をチェックします。あわせて、レントゲン検査にて、
心臓や肺の陰影(心拡大や肺水腫など)、腹部臓器の状態を診ます。これらのチェックの際には、
心疾患以外の病気も考え、合併症だけでなく鑑別も行います。ここで、心疾患の可能性が診られた場合、
心エコー検査や心電図検査を考えます。レントゲンで心臓の拡大が見られた場合、
ごく簡単に言うと心臓が大きいことはわかりますが、心臓の筋肉が厚くなっているのか、心臓の内腔が拡大しているのか、
これはレントゲン検査では鑑別できません。また、心疾患の大きな原因のひとつである弁膜症も、
ある程度の所見から推測はできますが、弁の状態はわかりません。
ここで、心エコー検査を行うことでそれらの不足が補えかつ診断がより精度が増すことになります。
また聴診上異常がなくとも、重篤な不整脈やその傾向、心臓の細部の機能を評価するには、心電図検査も有用です。
さらに、造影検査なども行うことができますが、こちらは侵襲を伴う検査のため必要性を考慮するべきでしょう。
 
 検査を実施するに当たって重要な事は、1)検査は極力少ない項目で行う、中途半端な実施はしない、
2)実施する場合、侵襲の少ない検査を心がける、ということです。

 検査は、大きく分けると侵襲性と非侵襲性の2種類に分けられます。身体の負担が大きい、小さいの差です。
ただし、あくまで負担を小さくしたいという観点から気にしているもので、大きな負担のかかる検査、
致命的なものや激しいものについては再考の余地があるのは当たり前です。
 
 人医領域では、非侵襲性に分類される検査であっても、動物が相手であれば、
完全に非侵襲性の検査はないのかもしれません(その子の性格にもよりますが)。基本的には、
血液検査やレントゲン検査、心電図検査、超音波検査、アレルギー除去食検査などが非侵襲性検査と言えるでしょう。

 軽度の侵襲があるものは、一部の造影検査、負荷試験などが当てはまります。侵襲性検査は、生検やCT/MRI検査、
一部の造影検査、脊髄液検査、肺胞洗浄などがあげられます。
 
 ただし、看過してむしろ後々苦しめる可能性があるならば、多少の侵襲は覚悟の上で
検査を行ったほうが良い場合も多いです。
 
 検査項目を少なくすることにこだわりすぎ、必要なものまで省くことには注意しなければいけません。
検査が意味のないものになりかねません。また、病状によっては、
無駄とわかっていても診ておかなければいけない場合やたくさんの情報が必要な場合もあります。

 例えば、原因不明の疾患や免疫介在性疾患、アレルギー、癌などの患者さんです。

 検査は良いも悪いも行う側の姿勢や技術によるものが多く、その点は重々留意する必要があります。

 もし1つしか診察する手段がなかったら何を選ぶか、仲の良い獣医師と話したことがあります。
答えは同じ、「問診と五感を使った身体検査!」そうこれに勝るものはありません。
絶対にこれ無しでは診療は出来ません。

手術の考え方と縫合糸の選び方
 手術を行うにあたって、縫合糸は必ず使用する医療用具です。切開部分や断裂部分をつなぎ合わせる縫合だけでなく、血管や出血部位を結紮する止血、臓器の牽引や固定、個々の臓器の癒合や変位、縫縮、組織や臓器の再建などにも使用します。

 この縫合糸を使った手技とどの縫合糸を使用するかの選択やこだわりは、手術の中でも大きなウェイトを占め、外科医の意識や技術の差が大きく出る部分でもあり、その結果は直接的に生命に関わります。仮に生命に及ばなくとも、急性の術後合併症を引き起こし、これを乗り越えて、あるいは発症しなくともその後の慢性合併症や数年後の病気の発症などを起こすため、生涯を左右するものであるのは間違いありません。

 生命に関わる診療は、全て最大限の注意を払い、リスクや危険性を極力抑え、最善の結果を得なければいけませんが、特に直接的に生命に関わる手術や麻酔は、細かいところまでこだわり、気遣い、考え、施術しなければいけません。外科医によっては、縫合糸の選択が手術の80%を決めるとも言われています。

 話が脇に逸れますが、手術の成功は、術中術後を乗り越えるだけなら決して難しくありません。しかし、12:15本来の手術の成功とは、病気の快癒であり、術前よりも改善した体調や病状であり、消失あるいは軽減した苦しさや痛みであるわけですから、実際には手術後の数日から数か月後にはっきりするわけです。

しかも厳密には、病気によっては無理なことも多々ありますが、数年後の、あるいは生涯の、後遺症や合併症の発症を防ぎ、病気の再燃や再発が起こらないことが手術の成功であり、動物と飼い主さんがより幸福になることが成功と言えます。

この点は、獣医師ですら気づいてないことも多く、後々のこれらの病気の発症は別のことが原因と判断され、気付かないまま処理されてしまうことも少なくなく、本来であれば病気に苦しまずにいられた可能性も大きいわけです。

例えば、腫瘍の手術を例にとります。腫瘍を身体から摘出する場合、ただ単に切り取れば良いという訳ではありません。まず、腫瘍の性質や危険性を把握し、他の臓器への浸潤や転移、癒着の有無を調べます。さらに、どのように切除するかよく観察し、シミュレーションします。

切除する範囲(マージン)と癒着の剥離が正しくなければ、腫瘍は身体に残存します。切除する際に、腫瘍に不要な出血や損傷を加えると、腫瘍細胞は身体中に飛び散り、播種を起こします。腫瘍への触れ方、取り扱い方も腫瘍の転移や浸潤・転移の原因となります。腫瘍の性質により、あるいは不可抗力によっては防ぎきれないこともありますが、不用意に扱うことで大量出血を起こしたり、腫瘍が破れたり割れたりしてしまうことは、その場で生命を失う危険性も高く、治癒の遅延や体調・病状の悪化を必ず起こし、腫瘍の播種や転移の原因となります。

術前検査を行わずに、基礎疾患を治療せずに麻酔や手術を行うこと、麻酔手技の失宜、術中の感染、不活性組織の残存、術後の臓器癒着なども同様です。

同様の理由で問題になるのが、縫合や使用される縫合糸が関連する組織の癒合不全や術創の離開、止血失宜の出血、組織や臓器の損傷などです。

話を元に戻しましょう。縫合の方法や結紮、臓器や組織の取り扱いは、技術を習得するしかありません。術式を適切に選ぶことは、知識を学び、意識を高め、最善を尽くす姿勢を身に着けなければいけません。これらはなかなか出来ることではない獣医師も多くいます。その中で、縫合糸の選択は決して難しいことではありません。少しだけ知識があって、その点を気を付ける注意力があればできることです。

手術に使用される糸には、分類方法によっていろいろな種類があります。自然の材質を原料とする糸と人工的な糸、より糸(編み糸、多繊維性)と一本糸(モノフィラメント)、より糸とコーティングされて一本糸の状態にしたより糸、吸収糸と非吸収糸という分類です。特殊な例として、ステンレス製のワイヤーやチタン性のクリップも使用されます。

これらの糸の選択は、それぞれの糸の特性が手術に影響するため非常に重要ですが、万能というものはなく、体質や病状、手術の方法や臓器・組織の特性、使用方法や手技など、条件に合わせて検討しなければいけません。また、縫合糸の取り扱いや手術手技も大きく関与するため、縫合糸がどんなに良質でも、使用する外科医の技術や知識、意識によってもまた大きな差異が出てしまいます。

糸の評価は、いろいろな基準があります。

○組織反応性:身体の中で異物や異種蛋白として認識され、あるいは加水分解反応や炎症反応に伴う形で、組織反応性が現れます。この反応が強ければ強いほど、 遺残した体内で炎症や癒着、肉芽形成などを引き起こします。ただし、糸本来の組織反応性が乏しくとも、遺残期間が長ければ反応性は増してしまうこともあります。

○抗張力:糸に強い力、特に引っ張る時に耐えられる能力です。抗張力が強ければ、組織をしっかりと保持することが出来ます。糸の特性に関わらず、糸の太さが増せば抗張力が増しますが、組織反応性は強くなります。

○結節保持力:糸を結紮した時の結び目(結節)の緩みにくさの能力です。結節保持力が強ければ結びがほどけないため、組織を保持する能力も高くなります。糸の特性に関わらず、結び目が多くなれば結節保持力が増しますが、組織反応性は強くなります。

○取り扱いやすさと結びやすさ:しなやかさ(非弾力性)が増すと糸の取り扱いが良くなり、結びやすくなります。

○吸収と非吸収:体内で加水分解や貪食により融解する能力です。吸収糸は、一時的な組織反応性を有しますが、体内より消失するため、糸の遺残による弊害がが起こりません。しかし、吸収される体内の環境や糸の特性によって吸収速度は異なり、抗張力の消失が必要以上に早く起こってしまう場合があります。

○コーティング:多繊維性縫合糸をコーティングすることで、より糸の利点に加え、組織反応性や易感染性を低下させる特徴があります。ただし、コーティングの損傷による特性の喪失や多繊維性縫糸の欠点が防ぎきれない場合もあります。


 糸の特性は次のようになります。

○自然素材糸;絹糸 低コスト、組織反応性 強、易感染性 有(蛋白質が原因?)
  合成糸;ナイロン、ポリプロピレン等(非吸収) 組織反応性 ほぼ無
      ポリジオキサノン、ポリグリコネート等(吸収) 組織反応性(吸収過程での炎症反応) 強

○より糸;抗張力 弱、結節保持力 強、しなやかさ 良、組織反応性 中、易感染性 有(繊維間に細菌が侵入しやすく、排除しにくい)

○モノフィラメント;抗張力 強、結節保持力 弱、しなやかさ 悪、組織反応性 弱、易感染性 無

○吸収糸;抗張力 弱(消失していく)、結節保持力 中〜弱(消失していく)、しなやかさ 中〜良、組織反応性 強、易感染性 有

 非吸収糸(モノ・合成糸);抗張力 強、結節保持力 弱、しなやかさ 悪、組織反応性 無、易感染性 無

○チタンクリップ;抗張力 強、結節保持力 中〜強、しなやかさ 悪、組織反応性 無、易感染性 無

<当院使用の主な縫合糸>

自然素材・より糸・非吸収;絹糸 ほぼ使用なし、緊急の場合のみ(煮沸・アルコール処理に感染性と組織反応性を減弱)

合成・モノフィラメント・非吸収;チタンクリップ、重合カプロラクタム、ナイロン、ポリプロピレン

合成・より糸・非吸収;ポリエステル、ナイロン

合成・モノフィラメント・吸収;ポリディオキサノン、ポリグリコネート

合成・より糸・吸収;ポリグラクチン910

体腔内の新生物・腫瘤(mass)を見つけたら
1、どのような時に見つかるか
@胸腔内
 症状:呼吸が荒い、咳が出る、チアノーゼ
 診察:聴診、X線検査、超音波検査、CT/MRI検査

A腹腔内
 症状:お腹が膨れてきた、お腹が張っている
 診察:触診、X線検査、超音波検査、CT/MRI検査

2、新生物が見つかっても→腫瘍とはかぎらない
 腫大、炎症、腹水/胸水、嚢胞、膿瘍、水腫・浮腫
 異物、脂肪、肉芽腫、脂肪織炎、良性新生物、腫瘍・・・

→これは何だろうか? 身体全体への影響は? 合併症/随伴症候群は?
  できるだけ、負担やリスクの少ない方法で診断は可能か
  血液一般/化学検査、CRP検査、X線検査、超音波検査
  血液凝固系検査、心電図検査
 
⇒全身の仮診断と体調・病状の把握

3、仮の診断が出来ても→massは何か?どんな性質か?が重要
 症状と上記検査から予測をする
細針吸引生検:細胞診⇒massの仮診断

⇒mass自体の仮診断
 ここまで行わなければ、治療法も予後の判断も出来ない
 *どんな疾患でも、特にmassでは、しっかりと把握しない限り軽々しくものは言えない

4、腫瘍だと分かっても→悪性腫瘍(癌/肉腫)とはかぎらない
 仮診断以上の確定診断が必要か?
 今の診断で治療法の決定や実施、予後の判定が可能か?

→可能であれば、治療開始
→さらに確定診断が必要な理由およびそのメリット/デメリットを検討
CT/MRI検査にて可能な限りの診断および病状や合併症/随伴症候群の細かい把握
切除生検/完全切除手術:病理組織検査

5、仮に腫瘍であるとして→容体が急変するあるいは予後不良とはかぎらない
 体調と病状、腫瘍の性質に合わせて治療法を検討
 早期発見/早期治療で治癒も見込める
 年齢は、腫瘍治療の方法決定の根拠とはならないが、1つの因子ではある
 あくまで、体調と病状から判断する
 外科手術が主な治療法だが、全身麻酔も含め、メリット/デメリットの評価が重要
 姑息的手術:完治が望めなくても、緩和治療や危険の回避に効果があることも
腫瘍の治療3大要素:外科手術 化学療法 放射線療法
    第4の治療法:免疫治療(細胞移入療法、幹細胞移植、インターフェロン、サプリメント等)
 ホスピス/緩和治療:楽にすること、経過をマイルドにすること、痛みをとることは大事
 
6、腫瘍の怖さは、腫瘍だけの問題ではない→合併症/随伴症候群が恐い
 腫瘍による機能障害、痛み
 腫瘍やリンパ節の拡大による諸臓器の圧迫、機能障害、痛み
 腫瘍の浸潤による腫瘍の進行、病状の悪化、多臓器不全、癒着
 遠隔転移による腫瘍の進行、病状の悪化、多臓器不全
 腫瘍の存在による体調不良、多臓器不全
 胸水/腹水
 出血、血液凝固障害、DIC、消化器障害
 腫瘍からの出血、腫瘍の破裂

腹腔内に形成される肉芽腫について
 腹腔内特に脂肪織に重度の炎症を起こし、周囲臓器や組織の癒着や肉芽腫形成を引き起こす疾患が増えています。皮下や腹腔内の脂肪織炎、肉芽腫性胃炎などが多発するミニチュア・ダックスフンドに多いことから、これらの疾患も含んで免疫学的異常や遺伝的素因、体質などが原因と考えられています。

 この肉芽腫は、動物の苦しみや痛みも強く、広範囲に拡大する例が多く、炎症や癒着を多臓器や組織に引き起こし、生命に関わることの多い疾患であり、放置されたり誤診されてしまうと予後不良あるいは死の転帰を迎えるため、最大限の注意が必要です。

○症状:元気・食欲廃絶、著明な疼痛や違和感、発熱、嘔吐・下痢、重度の感染症
      免疫異常

○診断:症状や既往・体質から推測、触診、
血液検査、CRP測定、X線検査、超音波検査 など

○治療:副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤による消炎および免疫抑制
     免疫調整〜サプリメント、免疫治療など
     抗生物質投与
     内科疾患での完治は不可能〜外科手術

○予後:早期発見の外科手術により完治可能
      完全摘出や癒着の剥離が技術的に不可能なケースもある
      ただし、内科治療の継続による予防が必要になる可能性あり
再発の可能性あり

また、外科手術を行った結果、数か月から数年後にこの肉芽腫を発症する例も多いことから、上記の生体側の素因だけでなく外科手術が大きな原因の1つではないかと考えられています。外科手術は、組織や臓器の炎症や損傷、癒着を少なからず引き起こすため、これらが刺激になることも多く、他にも腹部臓器の空気暴露、全身麻酔、血流の変化なども関与しているはずです。また、外科手術に使用される医療器材である縫合糸が、これらの肉芽腫を惹起する一因であると示唆される報告や経験も多くなっています。

ただし、これらの原因の解析はいまだ進んでおらず、何が原因であるか未だ特定できていない状況を鑑みると、生体側の素因と外科手術の影響の両側面を考えながら、最大限の予防法〜生体側の素因の予測や精査による管理、外科手術手技の徹底や縫合糸の適切な選択など〜を試みるべきですが、もし防ぎきれない場合も、これらの疾患を念頭に置きながら診療を行うことで、早期発見や早期治療を行うことが可能となります。

特に、典型的な例として、絹糸を使用している手術例で圧倒的な肉芽腫発症例が多く、さらに病理組織検査にて縫合糸が肉芽腫の内部から見つかっているため、組織反応性の高い多繊維性非吸収性縫合糸が肉芽腫を作ることは断定されています。ただし、この縫合糸だけが原因とは考えられない事例も多く存在しているため、今後も徹底した検証や考察が必要です。

・絹糸が原因;組織反応性?多繊維?自然素材?易感染性?
・多繊維性ナイロンが原因;コーティングの損傷?多繊維?易感染性?
・絹糸の使用が主流であった時代になぜ少なかったか;絹糸が原因ではない?認識不足?
・組織反応性の低い合成非吸収糸でも発症〜長期遺残のため?
・合成吸収糸は、一時的に組織反応性が高いが、発症例は少ない〜短期だから?遺残しないから?
・組織反応性のないワイヤーやクリップでも発症〜縫合糸は関係なし?外科手術が原因?
                    他の原因が主因?
・これらの器材未使用例でも発症〜縫合糸は関係なし?外科手術が原因?
                 他の原因が主因?
・病理組織検査や肉眼所見で縫合糸が認められない〜縫合糸は関係なし?
外科手術が原因?
他の原因が主因?

中には、「縫合糸関連性肉芽腫」と断定する獣医師や報告も多くなってきていますが、実際には上記の事実を解明しない限り、こうと断定するにはあまりにも早合点であり、早計だと思われます。また、これらの誤った周知は、さらに混乱や誤診を招くため、事実を積極的にアナウンスする必要があります。

落下事故の対処
落下事故について

1、落下の様子が分かると、状況判断がしやすい
 高さ
 落ち方; 直接 間接 階段 転がる
 落ちた場所; 硬い床 フローリング 土 コンクリート クッション/ソファ 軟らかい
 現場を; 見ていた 音を聞いた すぐ駆けつけた 知らないうちに
 その後の様子; 外傷 痛み 歩様 興奮 緊張 恐怖 平常

2、症状
 外傷; 出血 切創 擦過傷 打撲 挫傷 腫脹 内出血
    
      体幹 四肢 頭部 顔面

 臓器損傷; 骨折/切断/炎症/機能障害:脊椎 骨 関節 靭帯 骨盤 

         末梢神経 脊髄 脳
      
         肺:挫傷 出血 破裂 気胸
         肝臓/脾臓/腎臓/膀胱など:挫傷 出血 破裂
      
         機能障害

3、特に外傷がなくとも、内臓の損傷が危険
              48時間以内に急変の可能性

4、必要な検査
 身体検査 念入りな視診/触診 神経反射/姿勢反応検査
 血液一般検査;貧血 白血球増多 血小板減少 など
 血液化学検査;全身のスクリーニング検査 特に肝臓 腎臓 など
 CRP検査; 重度の炎症
 X線検査;全身のスクリーニング検査 特に骨 脊椎 諸臓器
 超音波検査;損傷/出血/破裂 特に胸腔 肝臓 脾臓 腎臓 膀胱 など

お肉の生食は大間違い〜百害あって一利なし!
  昨日飼い主さんとお話していて、猫のIBD治療に「生肉療法」なるものが実しやかに飼い主さん間で効果あり、と評価されているとお聞きしました。でもこの手の話、昔から迷信や都市伝説のようにあるお話で。冷静に考えれば必ずおかしいことは分かって頂けるはずですが、これらいわゆる「民間療法」や「自然療法」〜そもそも療法ではないんですが〜に傾倒される方は、なかなか聞く耳を持って頂けないことが多く、冷静にお話しできなかったり、どんなにご説明してもネットや評判を重視してしまい・・・、何とかせねばなりません。 

 以前にもお肉の生食には、自然をどう考えるかも絡めて、注意を喚起する文章を書きましたが(2009.7月)、今回はその集大成で。そういえば、人のお肉の生食にも書きましたが(ユッケ、レバ刺し、ハツ刺し、センマイ刺し・・・、大好きです)。

 さてこの療法、そもそもの始まりは「猫は元々肉食だから」、なので「生肉が身体にいいはず」、そして「生肉療法」という短絡した結論になるわけですが、でも実は生肉だけでは栄養が不完全、ミネラルやビタミン等は添加してくださいというもの。実はここまでの記載だけで、数十か所の突込みポイントがあり、突っ込みどころ満載なんです。

 まず医学的に、生肉の食事がだめなんじゃないの?と思いませんか。だって、@結局混ぜ物するんですから不完全ですよね。これじゃ、キャットフードと変わりません。お肉だけで不足が多いなら、結局それはお肉がいいわけではありません。それに加えて生肉は、A高蛋白で栄養バランスが最悪、脂肪も考えないと合わせて高脂肪、消化吸収が難しく、胃腸に負担になる。これだけで、心臓病や腎臓病、消化器疾患の予備軍です。でももっと、肉だけではだめな理由があります。

 それは根本的な問題。B生肉は、細菌や寄生虫という問題があり、健康被害が多くなる危険性があります。また、胃腸にとって生肉はC消化吸収の負担になるだけ。そして論拠となる、「元は肉食」という指摘。これ、猫ではなく「ネコ科の野生動物」のことを言っているわけですから、D「猫は肉食」もまず誤り。猫は人が家畜化した動物であって、野生動物ではありません。正確には「猫の祖先は肉食」。だから、大昔の人と暮らし始めた初期は別としてE今の猫たちに生肉を食べる習慣なんて初めからありません。

 例えば人の祖先は猿だから、「猿の生活に戻れ」とは言わないはずです。これってとっても身体に良いことでしょうか?猿と一緒に生活し、同じ物を食べていれば健康になれるでしょうか?嘘デタラメ、そう思う方はいらっしゃらないと思います。ならば、なぜ猫にはこの理論を当てはめてしまうのでしょうか。たった数十年、日本人の食生活が欧米化しただけで、体型が変化し、体調や病気にまで影響しているのに、何千年の経過は気にしないで良いのでしょうか。

 そうそう、日本人には生野菜って身体の害になる可能性があるの、知ってますか?生野菜は、全てが健康食品ではありません、むしろ胃腸に負担になることが多いのです。日本固有の調理法を通して摂取する方が、日本人の身体には合っているという報告があります。話を元に戻しましょう。

 加えて恥ずかしい間違い。F「肉食」って肉だけ食べるわけではなくて、肉と一緒に血や内臓、骨も食べているんです。だから、草食動物が獲物であれば、その体内の野菜も結果的に摂取しますし、あらゆるものを口にするから栄養分は足りるわけです。しかも、これらを食べて身体を壊すような子は、自然淘汰されます。G肉だけ食べる動物なんていないんですよ。そう、ここにもお肉だけ食べていればいいなんてことがあり得ない理由があるのです。

 よく言われる「自然に返す」というのもいろいろな意味で間違っています。H人の元でしか生きられない動物を野生動物と混同している、現代の自然は野生動物にとってももはや自然ではない、人が出来る範囲だけ自然に返してそれが正しいと思う。本当に自然に返したいなら、その動物にとって自然は何かと考えることが大切。人が勝手に思い込んだ自然を正しいと勘違いし、それは人の都合に良い捻じ曲がった自然。もし、ずっと昔の野生に戻すことを考えるならば、まずは人が生活を共にすること、関わるのをやめなければ、そして強い動物だけが生き残るという原理を受け入れ、自然淘汰されていくこと、寿命が短いことも受け入れなければ。でもこれって、ひどいことではありませんか?I人と自然に生きる動物は、人と離れることは不自然でしかありません。
 
 野生に返しても元の生態に戻るわけではなく、本当の自然界ではすぐ死んでしまいます。もちろん、生肉なんて消化吸収しっかりできません。だから、猫にとってはいい迷惑。そう、J猫にとっての自然は人と適切に良い関係を築くこと。

 そもそもこのIBD、実際には人の病気の名称を動物の病気に当てはめただけで、実は獣医学的な定義は不明瞭なままでいます。今の解釈は、犬や猫に特有の「慢性炎症性胃腸疾患(消化管疾患)」の総称であって、IBDの中でも原因が明瞭な場合は普通はその病名を、必要な検査を行ったうえで原因が不明瞭であったり特発性であるものを、IBDとするような傾向があります。

 だから、ここでまず第一に考えなければいけないのは、まずKIBDという診断が本当に正しいのか、IBDに対しての正しいアプローチが行われたうえでの診断や治療なのか、ここなんです。僕が今まで他院でIBDと診断されたものの大半は、正しい診療を受けておらず、正式にはIBDではありませんでした。だから、そもそもIBDの診断が正しいか不明のことが多い病気に対して、特効薬的な治療など、ましてや絶対に効く治療法などあるはずはないのです。

 またLIBDにはたくさんの原因があり、さらに多種多様な病態があり、症状があります。この病気の総称でしかないIBDに、1つに治療だけが絶対に効くなんて根拠も現象もあり得ません。

 だからあえて強く言えば、M「生肉療法」だけで治る病気は、IBDではありません。あるいは、「生肉療法」で治る病気は、他の治療や食事でも、適切に治療を行えば治っているはず、そうまぐれ当たりだけ。もちろん、蛋白質の抗原性などを考えると、たまたま「生肉療法」で好転する病態はあるはずです。でもこれは、生肉を試すことに対して理由や根拠があるはずで、当てずっぽうのことではありません。

 また、「生肉療法」はすでに数十年前から世の中に存在し、獣医療でも行われていました。しかし、Nすでに特別な効果がないと検証されています。実際に僕は臨床の現場で、生肉で発症した、あるいは悪化した動物をたくさん診ておりますが、それでしか治らない症例は1度もお会いしたことはありませんし、正しい情報の中では見聞きしたこともありません。

 以上のように、お肉の生食、ひいては動物への理解の不足や誤った思い込みは、ただ危険なだけではなく、百害あって一利なし!です。<「警視庁失踪人捜査課」をながしながら>

犬の問題行動
1、一般に生まれたばかりの犬は親兄弟と過ごす間に犬の社会性を学びます。
この最初の学習をせずに人間に引き取られると、他の犬との付き合い方を知らない犬になってしまいます。

<質問>上記のような中で幼児期を過ごしてしまった犬は、逆に言えばその後いくらトレーニングや外出をさせて
社会性を得ようとしてもあまり意味がないことなのでしょうか?またそれに対してのトレーニング法、対処法、
コツ等があるのでしょうか?

<返答>まず基本的な考え方として、しつけやトレーニングには、無駄も無理もありません。
また、どのような状況や年齢でも、正しくあきらめず対処すれば必ず効果は現れます。ただし、根本的に疾病が
原因あるいは関与していないこと(治療が必要です)、正しい知識と方法で行うこと、生活環境や飼い主さんに
その原因があることが大半ですので、基本的な生活環境を整備すること、これが大切です。

 今回のような場合、100%人に原因があり、動物の繁殖や販売を根本的に改善しない限り、
この問題はどんどん増えていく事でしょう。現実問題として、社会性を学んでいない犬の方が多いくらいに
なっています。

 繁殖や子育て、親離れ(群れ離れ)を正しく行わないブリーダーやショップ、早く手に入れることだけを考える購入者、
必要な知識を持たず、適切な生活環境の整備やしつけを行わない飼い主、その指導を怠り、
またはその能力のない獣医師やトレーナー、これらが1つでも改善されなければこの問題は解決されません。
目の前の出来る事に最善を尽くすしか、今出来る事はありません。

 話がそれてしまいました。おっしゃられている通り、しつけやトレーニングは十分意味があり、効果が期待できます。
ただし、学ぶべき時に学んでいないことを教えるには、労力と時間がかかり、根気と努力が必要です。でも苦労した分、
行う意味と意義があります。

 社会性を持たないといっても、その中のどの部分に欠落があるのか、これによって対処法は変わってきます。
が、ご指摘の通りトレーニング法、対処法、コツ等全てあります。これらは、独学で勉強されるよりもしっかりとした
知識や技術のあるトレーナーや獣医師に相談しながら行うべきです。独りではなく、ご家族皆で、そして専門家と一緒に
対処するべきでしょう。

 いろいろな方法が、状況と症状により使い分けられますので、その時その場でカウンセリングをしながら、
またその効果を判定しながら、方法を決定します。

 また、社会性の獲得は、人で言えば幼児期の体験であり、日本には「3つ子の魂100まで」というとても的を得た
ことわざがあるくらいです。幼児期に幼稚園や保育園に通わず、あるいは通っていても学ぶことを学ばず、あるいは
家庭でしつけをされず、いきなり小学校に入学しても、勉強はおろか集団生活さえ出来ない子供になってしまうのと
同じだと思います。

2、むだ吠えや噛みぐせなどの問題行動は、飼い主の接し方やしつけが原因で起きるケースが多いものです。
問題行動が直らない場合は基本訓練をやり直しましょう。

<質問>噛みぐせには遺伝からくるものもあるかと思いますが、基本訓練で直るものなのでしょうか?
また、その場合の対処法とはあるものなのでしょうか?

<返答>これも先ほどの質問に近いお答えをすると、動物にはある種の本能と行動が遺伝するのは事実です。
ただし、これが動物本来の生活に支障をきたす本能や遺伝であれば、すなわち問題行動となり、それは人にとって
問題という意味ではなく、生きていくうえで問題となる行動で、自分を苦しめる行動であるとも言えます。ですから、
しつけやトレーニングは、人の都合や人の生活に動物をはめ込むためのものではなく、動物本来のルールを教え、
楽に楽しく、生活していく方法を教えてあげることです。

 問題行動は、動物自身が自分でコントロールできずに起こしてしまう行動で、ぼくらはそれを彼らの苦痛や悲鳴の表れと
考えています。

 これを矯正できない動物は死を迎えるだけで、その種は結果的に絶滅します。これらの矯正は、親から、群れから、
あるいは自分で学んで行っていくものです。そのため、これが出来ない野生動物は淘汰されていき、可能な動物が
生き残りますが、犬や猫のように人と共生する動物は、絶滅はしません。それは人の保護があるからです。

 ただし、この保護とは本来矯正できない動物をただ助けるという意味だけではなく、それら動物本来の生活と
人との共生に支障のある問題行動を、矯正して楽にしてあげるという意味もあり、むしろこれが正しい姿勢です。
人が、親になり、家族が群れになり、動物自身も学ぶということです。

 ただ、無駄吠えや噛み癖は、問題文にもあるように遺伝の問題ではなく、しつけの問題です。何でも噛んでしまう、
あるいは吠えてしまう本能は存在しません。生まれてきた時に、乳首や乳汁に反応して吸い付く本能はありますが、
この時噛む本能があれば授乳は出来ません。乳児としての主張として鳴き声をあげる本能はありますが、
吠えることはしません。

 これらはあくまで成長の過程で、覚えてしまう行動であり、この行動をして良いのかサインを出している時に
見過ごすか、誤ったことを教えるか、教えていないから行動として覚えてしまうだけです。本来これらは、親兄弟や
群れから学ぶことですが、そこから離されてしまうのが早すぎることもこの原因のひとつと言えるでしょう。
先ほどのご質問の獲得すべき社会性のひとつでもあります。

 これらの問題行動を矯正する方法はあります。ただし、同じ行動でも理由や原因は異なりますし、
疾病が原因であったり関与している事もあります。また、正しい知識と方法で行うこと、生活環境や飼い主さんに
その原因があることが大半ですので、基本的な生活環境を整備すること、これが大切です。

そのため、個々の原因と症状、状況により対処方法は異なります。カウンセリングと効果判定を繰り返し、
また生活環境やご家族の意識を考えながら、オーダーメイドの対処が必要です。

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